happIness*2-4 ページ4
.
「おはよ」
「……」
「、なに？」
.
次の日の朝、翔くんはいつも通りだった。
私がじっと見つめるけど、
それに少し眉をひそめて、どうかした？と続けた。
.
きのう、おそかった？と口をパクパク動かす私を見て
翔くんは何度か瞬きをした後、ふ、と笑って
リビングテーブルの上に置かれた紙とペンを私に差し出す。
ペンを受け取った私は、一瞬固まってしまった、
だって、私の口の動きを、彼は少しでさえ見てくれなかったから。
.
ぎゅ、と心臓のあたりが痛い。
そのせいで、手が少し震えて、
紙に滑らせた文字も、少し歪んでいたかもしれない。
翔くんはそんなの全然気づかないとでもいうように、
私の質問に「ちょっと遅かったかも」と言った。
.
しごと？と続けた文字の羅列に、彼は少し目を見開いてから、
「そうだよ」と言った。
嘘だった。
.
馬鹿みたい、彼の瞳は言葉より雄弁なのに、
きっと彼はそれを知らない。
「そっか、おつかれさま」と書き綴った文字は、
きっと歪な形をしていたに違いない。
.
こういう時、どうすれば良いのか、私は知っている。
相手に求められる自分になって、
適当に取り繕うなんて、私がいつも無意識にしてきたことだった。
.
翔くんは、私に嘘をついた。
昨日、帰りが遅かったのは仕事なんかじゃなくて、
誰かと会っていたからで。
だけどそれを偽るということは、私に知られたくないからで。
だったら私は、そのことに対して踏み込んではいけなくて。
.
彼のマネージャーに昨日のスケジュールを確認することはもちろん、
昨日の夜電話を聞いたことも、
ましてや彼が嘘をついたことを責め立てることも、
私はしてはいけないのだ。
.
"きょうはなんじにかえってくる？"
「はは、珍しい。どうして？」
"さいきん、いっしょにごはんたべれてないから"
「ああ、うん。そうだね」
.
少し考えるように、彼の瞳が左右に動く。
ねえ、だから。
嘘をつくなら、言葉だけじゃダメなのよ。
.
「今日は早く帰ってくるよ」
.
うそつき。
心の中でそう呟いて、私はにこにこ笑って頷いた。
少しでも長く、彼の手を握っていたくて。
.
それが自分で自分の首を絞めることになることを、
気づいているはずなのに。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2125人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
