happIness*2-30 ページ30
シャワーから戻ってきた彼が、
着信を知らせる端末に気づいて、手に取る。
その人が誰なのか、詮索する権利なんて私にはない。
.
「もしもし」
「……」
.
彼が向こう側のその人とはじめた会話を、
息を殺して聞く。
私がちらりと彼の方を見ると、
ぱちりと目が合ってしまった。
.
「ごめん、俺も掛けようと思ってた……」
.
そう言いながら、少しバツの悪そうな顔をした翔くんは、
会話を繋げながら、自分の部屋に消えてしまう。
まるで、悪いことをしているみたいだ、と思った。
.
反抗するみたいに、自室に引きこもる。
殺風景なそこは、ひんやりと冷たくて落ち着かない。
ベッドに横になる気にはなれなくて、
窓辺にぺたりと座り込んで、
カーテンの隙間から漏れる月明かりをぼんやりと眺めた。
.
「良い天気だな」と、思うこともなくなってしまった。
仕事をしている時は、「今日は寒いかな」とか、
思っていたのに、ずっと家にいるからそんなことも考えない。
.
きっと、ただの友達。
私にはいないから、分からないけど
同級生とかそういう、昔馴染みの友達がたくさんいることを
ずっと前から知っている。
.
女の人の友達だって、いるんだろう。
私には、わからないけど。
.
電話は、終わらないらしい。
シンとしたリビング、動かない空気、冷たいこの部屋。
肌寒いくせに、ベッドに行くのも面倒で、
私は窓枠に頭を預けて、目を閉じた。
***
目を覚ましたら、見慣れない天井。
ベッドに横になっていて、
きちんと布団も掛けられていた。
自室のベッドだ、あの後彼がここまで運んでくれたらしい。
.
結局、声のこと言えなかったなと思った。
ぺたぺたとリビングまで歩いていく、
もう出てしまったのか、翔くんの姿はない。
.
"おはよう
昨日は時間作れなくてごめん
話あったんだよね？今日帰ってきたら聞きます
翔"
.
書き残された手紙を見て、小さく息を吐いた。
なんだか少し、喉が痛い。
あいうえお、と声を出そうとして、止まった。
明確な音として、発音できない。
声になりきれていないそれは、掠れていて、
微かに空気を震わせただけだった。
.
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