7話 夏油傑視点 ページ8
「出前をお願いしたいのですが。」
「ヒィッ!!!は、は、はい!! ご注文をどうぞ!!」
電話越しに聞こえた悲鳴に、またかと溜息を吐く。
できるだけ穏やかな声を出してみても、どうしても怖がられてしまう。
この職業上、普通の人達から遠巻きにされ、恐れられるのは百も承知だが、別に取って食う訳でもないのに。
「…特上を1つ。××町△△ビルの3階までお願いします」
「は、はいッ!」
電話の主は叫ぶように返事をして、ブツンと電話を切った。
彼処の寿司は美味いので、本当はもっと頻繁に利用したいのだが、私達は店の人達にそれはそれは怖がられている。
以前来た配達員の男は寿司を置いてお金も受け取らずに逃げて行ってしまったし、その前に来た別の男は赤ん坊が如くギャン泣きしていた。
(ちなみにお金は後日ちゃんと店に返した)
ならば直接店に出向けばいいという話だが、この辺は暴力団を取り締まる警察が多い為そうもいかない。
……配達の度に怖がられるのはな…。
またも溜息が落ちる。煙草の煙と共に吐き出されたそれは、無駄に広い部屋に溶け込んでいった。
「ごめんください〜!」
聞こえてきたのは突き抜けるような明るい声だった。
悪く言えば能天気。店主からここはそういう場所だと言われただろうに、恐怖をおくびにも出さない、うら若い女の可愛らしい声。
そっと監視カメラのモニターを覗き込むと、分厚い扉の向こうで彼女はキョロキョロと辺りを見回していた。
警戒も恐怖も何一つ感じられないその姿に、暫し呆気に取られる。
「あぁ、出前かな」
「はい、そうです!寿司屋です!」
部屋から出てきた私を見ても、彼女は元気よく頷くだけ。
花が咲き零れるような温かな笑顔で商品を渡され、私は面食らってしまった。
この子、高校生だ。
高校生をこんな所に送り出す店主の気を疑うが、まぁ人手が足りなかったのだろうそうだろうと1人で思考を片付けて、財布から取り出した札束を握らせる。
形の良い眉を困ったように下げて、彼女は一度は断った。
が、私の言葉に次の瞬間には掌を返して受け取っていた。
「ありがとうございます!!」
彼女の背丈は小さい。私との身長差は30cm以上はあるだろう。
その為、必然的に上目遣いになる。
私の顔を覗き込むようにして見つめるその瞳は、明かりのついていない部屋でも光り輝いて見えた。
濁りの無い栗色の瞳は何の邪心も見えず、いっそ不自然なほど透き通っている。
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或 - 更新止まっちゃってる感じですかね…待ってます(泣) (2021年3月29日 23時) (レス) id: 62feb543dd (このIDを非表示/違反報告)
白狐(プロフ) - 続き楽しみです! (2021年3月10日 21時) (レス) id: f345edd9e1 (このIDを非表示/違反報告)
或 - この作品の夏油さんに沼りました!更新楽しみにしてます!!! (2021年2月27日 20時) (レス) id: 62feb543dd (このIDを非表示/違反報告)
蛹(プロフ) - 緑の白猫さん» コメントありがとうございます!頭が切れて策士で、人畜無害な笑顔で着々と夢主の外堀から埋めていく夏油傑大好きなんですよ〜!!!ぜひぜひ嵌ってください (2021年2月27日 16時) (レス) id: 3eead30ed0 (このIDを非表示/違反報告)
緑の白猫 - やっべぇこの作品の夏油さんに嵌まりそう。てか嵌まらせて下さい← (2021年2月27日 10時) (レス) id: 41276e8159 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蛹 | 作成日時:2021年2月15日 22時