6話 ページ7
その日の夜。
夜、といっても時刻は19:00。夕方と夜との境目くらいの時間だ。
季節は夏。窓から見える空は真っ黒の雲に覆われて、星のひとつも見えない。
今日は、コンビニバイトだ。
あと一時間でシフトが終わる。
あともう少し頑張るぞー、と気合いを入れたところで、自動ドアが開き入店を知らせるベルが鳴った。
「いらっしゃいま…あ!」
「おや、奇遇だね。」
お客さんの姿を見て、思わず声を上げてしまった。
昨日とは違い深緑色の着物を纏うその人は、確かに昨日出会ったあの男の人で。
レジに立つ私を見て、男の人はゆるりと微笑んで右手を上げた。
「合計、280円です!」
少しして男の人がレジに持ってきたのは、ブラックコーヒーとキャラメルミルクティーだった。
0が何個付くんだろうってくらいに輝いている革製の財布を取り出して、男の人は百円玉を三つ出す。
「20円のお返しです!」
「ありがとう。」
男の人はお礼を言ってからお釣りを受け取った。
ちゃんとありがとうって言ってくれるなんていい人だなぁ。ヤ〇ザなのに。
そんなことを思っていると、「君はここでもバイトをしているんだね」と上から声が降ってくる。
「はい、そうです!…あ、昨日はありがとうございました!」
「いいよ、そんなに畏まらなくても。」
深々と頭を下げた私を、男の人は右手で制した。
「君は高校生だろう?そんなにバイトをかけ持ちして大丈夫なのかい?」
「大丈夫……とは言えないんですけど、金欠なので…」
痛い所を突かれて顔がギクッと強ばる。
大丈夫ではない。主に、勉強が。
でも、親のいない小さな子達が沢山いる施設では、高校生以上の子達にまでお小遣いを与えるのは無理な話だ。
欲しいものは自分で稼いだお金で買わないと!
面倒を見てくれている施設の人に迷惑はかけたくないし。
「そうか。……君は、よく頑張っているんだね。」
甘い甘い、キャラメルのようにどろりとした、優しい声音が鼓膜をくすぐる。
ハッと目の前の男の人を見れば、真っ黒の瞳の中に泣きそうな私が佇んでいた。
「あ、ありがとう、ございます、」
施設の人達は新しく入ってきたチビちゃん達に手がかかりきりだ。
長いこと人から温かい言葉をもらえてなかった心に男の人の言葉はじわりと染みた。頬が熱くなる。
「頑張ってる君に、ご褒美。」
「…え?」
それ、君のだよ。
そう言って男の人はブラックコーヒーだけを持ってコンビニを出ていった。
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或 - 更新止まっちゃってる感じですかね…待ってます(泣) (2021年3月29日 23時) (レス) id: 62feb543dd (このIDを非表示/違反報告)
白狐(プロフ) - 続き楽しみです! (2021年3月10日 21時) (レス) id: f345edd9e1 (このIDを非表示/違反報告)
或 - この作品の夏油さんに沼りました!更新楽しみにしてます!!! (2021年2月27日 20時) (レス) id: 62feb543dd (このIDを非表示/違反報告)
蛹(プロフ) - 緑の白猫さん» コメントありがとうございます!頭が切れて策士で、人畜無害な笑顔で着々と夢主の外堀から埋めていく夏油傑大好きなんですよ〜!!!ぜひぜひ嵌ってください (2021年2月27日 16時) (レス) id: 3eead30ed0 (このIDを非表示/違反報告)
緑の白猫 - やっべぇこの作品の夏油さんに嵌まりそう。てか嵌まらせて下さい← (2021年2月27日 10時) (レス) id: 41276e8159 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蛹 | 作成日時:2021年2月15日 22時