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視界も遮るような桜吹雪があまりにも綺麗で、ついぽつりと口にした桜寿朗、という名前を総寿朗さんが気に入り、息子につけてしまったのだ。
「Aさんに名前をつけてもらいたいんです。この子が大人になって、私たちがいなくなった時、名付け親が居たら心の支えになると思うんです。
Aさんにしか頼めない」
私は、戦闘か鬼化中に日光を浴びるかしない限り死ぬことはない。
だから引き受けた。
「ーーーーーたしかに、引き受けさせて貰います」
桜。木、木のこずえ。槇。
嗚呼思いついた。
「煉獄槇寿朗。こずえの字で槇。
樹木の先まで余すところなく水を吸い上げるように、色んなことを学んで、その枝先に寿をひっかけて手に入れられますように」
「良い名だ」
そう呟き、何度も赤ん坊に名前を繰り返した。
「お前の名前は煉獄槇寿朗だ。槇寿朗。槇寿朗。その名の通り生きてくれ」
その声はもう大声ではなく、弱々しい、老人のそれだった。その儚さに、老いと衰えを感じてしまった。
私は寂しくなった。
後何年、総寿朗さんと話ができるだろう。
明るく豪快に笑うこの人が好ましかった。
一番信頼している。
一番感謝している。
「私を鬼殺隊に招いてくれてありがとう。
何度も命を助けてくれてありがとう。
出会えてよかった。
感謝してる」
「唐突だな。礼には及ばんさ」
総寿朗さんは笑った。
そしてその八年後、自宅で静かに息を引き取った。
鬼殺のために出ていて、死に目には会えなかったが葬式には行った。
生前の騒がしさが嘘のように静かに眠る姿に、ヒヤリとした嫌なものがあった。
私はこの先何度も何度も、こうやって見送るのか。
皆私を置いて逝くのか。
寂しかった。
「私にとって君は生涯最高の友人だった」
老いぬこの身が恨めしかった。
同じ寿命で、朽ちてしまいたかった。
鬼のまま日の元へ出てしまおうかと思った。
目を伏せたまま死顔を見る私に、槇寿朗が声をかけた。
「Aさん?」
槇寿朗の顔を見た瞬間、ほむらちゃんの言葉を思い出した。
名付け親だけでも居てくれたら支えになると思う。
それは、私が人より長い悠久の時を過ごせるから。
自分が見ることのない子の生涯を見届けて欲しいという願い。
それを承諾したのだ。
自害などしたら、総寿朗さんに怒られてしまう。
「何でもないよ、大丈夫」
ぽんと頭を撫でて微笑んで見せた。
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moeka(プロフ) - 最近更新がなくて寂しいです。更新してくれたら嬉しいです。待ってます。 (2020年5月4日 6時) (レス) id: d61ed9781e (このIDを非表示/違反報告)
乾 巽(プロフ) - ありがとうございます! (2019年7月18日 21時) (レス) id: c1b6b5f4c6 (このIDを非表示/違反報告)
夏終朝凪(プロフ) - いえいえ!これからも頑張ってください!楽しみにしていますm(_ _)m (2019年7月18日 20時) (レス) id: 8142368f1e (このIDを非表示/違反報告)
乾 巽(プロフ) - ありがとうございます!しまった!直しときます! (2019年7月18日 20時) (レス) id: c1b6b5f4c6 (このIDを非表示/違反報告)
夏終朝凪(プロフ) - 面白くて続きが気になります!更新頑張ってください!すこし気になったことがあります。胡蝶しのぶさんの表示なのですが、「忍」ではなく、平仮名だと思います。 (2019年7月18日 19時) (レス) id: 8142368f1e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:乾 巽 | 作成日時:2019年6月28日 17時