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しのぶちゃんは、私が鬼だと知らない。
何十年も、この姿のまま生き続けていることも知らない。
今鬼である私の存在を知るのは、お館様とその息子輝利哉様、あまね様、そして総寿朗さんの孫である煉獄槇寿朗だけだ。
何十年も前のことをありありと思い出せた。
街から街へ渡り歩く様な生活をしていた私を、半端強引に総寿朗さんは煉獄家へ連れて行った。
その時もう既に６５歳を超えていたというのに、初めて会ったあの日と変わらない大きな声で笑いながら私の手を引いていた。
「初孫が生まれた！Aに会わせたくてな！」
「もう。手、離してよ。ついてくから」
「む、すまんな！
Aが昔と変わらないものだからつい俺も若いままだと思い込んでしまってな！」
「たとえ若くても妻帯者の行動じゃないよ？花火さんに怒られるでしょ」
煉獄花火、総寿朗さんの奥方であり、二年前に亡くなっている。明るく聡明な人で、一向に歳をとることのない私にも分け隔てなく接してくれた。
総寿朗さんは、花火さんを亡くしたショックなのか、その頃からやや物忘れが増えた。
ぼうっとしていたり、私の名前も何度か忘れてしまっていた。
それが、初孫ができたと知った時から少しずつ良くなっていた。
大声も騒がしい笑い声も、懐かしい。
「見てくれ、A！」
赤ん坊を抱いて目を輝かせる総寿朗さんの横に座って覗き込むと、赤ん坊の父親である桜寿朗が注意した。
「父上、あまり大きな声を出さないでください！さっき寝たばかりなので！」
「貴方も十分五月蝿いのですよ」
桜寿朗の妻のほむらちゃんがさらに重ねて注意した。
「煉獄の男児はみんな声が大きいんですから」
「嫌ではないけど、ちょっと騒がしいよね」
ほむらちゃんと顔を見合わせて笑う。ほむらちゃんも私が鬼だと知っている。けれど何も言ったことはない。
「名前は決めたの？」
「それなんですけどもね、お義父様がAさんにつけてもらいたいって。
私達もそれは賛成なんです。引き受けてもらえませんか？」
「わ、私？…いいのかしら」
「父の若い時から家族ぐるみの仲なんです。俺の名前もAさんの発案だと聞いてますから！」
２０年以上前のことを思い出し、嗚呼、と口にする。
「あの日は桜が満開だったから。ここ数十年で一番の咲きっぷりだった」
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moeka(プロフ) - 最近更新がなくて寂しいです。更新してくれたら嬉しいです。待ってます。 (2020年5月4日 6時) (
レス) id: d61ed9781e (このIDを非表示/違反報告)
乾 巽(プロフ) - ありがとうございます！ (2019年7月18日 21時) (レス) id: c1b6b5f4c6 (このIDを非表示/違反報告)
夏終朝凪(プロフ) - いえいえ！これからも頑張ってください！楽しみにしていますm(_ _)m (2019年7月18日 20時) (レス) id: 8142368f1e (このIDを非表示/違反報告)
乾 巽(プロフ) - ありがとうございます！しまった！直しときます！ (2019年7月18日 20時) (レス) id: c1b6b5f4c6 (このIDを非表示/違反報告)
夏終朝凪(プロフ) - 面白くて続きが気になります！更新頑張ってください！すこし気になったことがあります。胡蝶しのぶさんの表示なのですが、｢忍｣ではなく、平仮名だと思います。 (2019年7月18日 19時) (レス) id: 8142368f1e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：乾 巽 | 作成日時：2019年6月28日 17時
