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「姉が殺され、母もそのショックで身体を壊して立て続けに……。父は、それに耐えられなかったのかもしれません」
池田は肩を竦め、殊勝に笑ってみせた。それを見た銀時は、本心かは分からないが珍しく申し訳なさそうな素振りをした。
「そりゃすまねぇことを聞いたな」
「いえ、いいんです。もう十年以上も前のことですから」
すると、やり取りを聞いていた土方が真剣な表情で口を挟んだ。
「……ちょっと待て、姉がいると言ったか?」
「ええ。私の九つ上ですから、生きていれば土方副長と同じ歳です」
それから池田は、思い出したように付け加えた。
「姉には、父と同じ泣きぼくろがありましたよ」
土方は、自分の中で何かが組み上がってゆくのを感じた。自分はどこかで真相に気が付いている。一瞬だけ、すべてが見えた気がしたのだ。胸がざわざわと揺れて落ち着かなかった。
目の前の新人隊士は十八歳。十一年前に姉が殺され母親を亡くし、父親と生き別れている。彼の父親に生き写しの隊士。父親譲りの泣きぼくろがあるその姉。姉弟は約十歳差。
バラバラだった手がかりが結びついた。
土方は立ち上がると驚く周囲に構わず、先ほどまで確かめていた古い写真を取り出す。
三枚目で、若いAと一緒に写っている少女は、右目の下にほくろを持っている。しかも彼女に抱き寄せられているのは、十にはまだ足りないであろう齢の男の子。
それを確認すると、土方は池田の眼前に写真を突き付けた。
「写っている人物に見覚えはないか」
池田は言葉を失った。写真を食い入るようにじっと見つめ、唇を震わせている。彼の動揺が手に取るように伝わってくる。
やがて彼は掠れた声で呆然と答えた。
「中央の女性は……私の姉です。右隣は私です。……この写真、どうなさったのですか。一体何が起こっているのですか」
うろたえる池田に、土方は落ち着き払って説明した。
「榎本Aが数日前から姿を消した。俺たちは手がかりを探している。だからお前にも話を聞いた。この写真はAのものだ。お前の姉上の左隣は、若い頃の彼女だ」
池田は視線を動かし、困惑した表情で写真を見つめ続ける。ゆっくりと口を開いた。
「……榎本副長は女性の方だったのですか?」
「そうだ」
「……つまり、土方副長も女性ですか?」
「違ぇわそんな訳あるか。一回大浴場で出くわしたことあるだろ、何言ってんだお前。そんな顔しといて余裕あるだろ、実は」
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長谷夏子(プロフ) - ukyo_0527さん» こちらこそ、ご覧いただき本当にありがとうございました。長い間応援してくださって感謝しております。 (2023年1月4日 10時) (レス) id: 394b5918dd (このIDを非表示/違反報告)
ukyo_0527(プロフ) - 最後まで読めてよかった。作者さんありがとうございました。 (2023年1月4日 4時) (レス) @page49 id: 7920f89ce1 (このIDを非表示/違反報告)
長谷夏子(プロフ) - いくまさん» コメント嬉しいです、いつもご覧いただきありがとうございます!!お褒めの言葉大変恐縮です、これからも頑張ります!よろしくお願いします! (2021年8月6日 0時) (レス) id: 394b5918dd (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - いつも更新楽しみにしています。書き方や表現の仕方が大好きです。更新頑張って下さい、待ってます、、!! (2021年8月5日 13時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
長谷夏子(プロフ) - 饅頭こしあん派さん» コメントありがとうございます。とても嬉しいです!自由な時間が増えてきたので少しずつ更新していきたいと思います、よろしくお願い致します! (2021年8月4日 14時) (レス) id: 394b5918dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長谷夏子 | 作成日時:2020年1月5日 12時