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「本人から聞くしかねぇってことか」
土方は無言で頷くと、脆くなった布切れを傷付けぬよう丁寧につづらの中へと戻した。
続いて、これまた収められていたちりめんの巾着を手に取り、中身を確認する。
「……写真か」
入っていたのは、何枚かの古い写真だった。
一番表に重ねられているのは、仲睦まじい家族の写真である。写真機が伝わってすぐのものなのだろう。あまり鮮明でないし、色も白黒だった。
両親二人の間に、まだ幼い女の子が紙で作られているらしい兜を被って、満面の笑みで写っている。手には旗のような物を持っていた。
「端午の節句か?」
「言われりゃ確かに、これは鯉のぼりに見える」
「……Aは親父さん似みてぇだな」
「母親にも相当似てるぞ」
女の子の隣に写る父親らしき男性は、土方から見ても今の彼女にかなり似ていた。全体的な雰囲気は凛とした美人の母親とそっくりだが、通った鼻やきりりと涼やかな目元自体は父親に生き写しといっても過言ではない。
だが、顎の小さいあたりはやはり母親の方に似ている。少しふくりとした頬も同じだった。
二枚めは十を少し過ぎた辺りの少女が、ませた表情でこちらを見ている。竹刀を肩に担ぎ、道着姿だった。隣には同じ年頃の少年たちが三人並んでいる。
「あっ」
この写真を見た途端、銀時が素っ頓狂な声を上げ、左端でやんちゃそうな笑顔を浮かべる少年を指差した。
「これは俺だ」
なるほど、確かに髪の色が黒くはないようだった。銀時はふてぶてしい表情のままだったが、瞳は懐かしそうに少年を見つめていた。
次の写真では少女はさらに成長していた。髪が肩の辺りまで伸び、目鼻立ちが子どもから大人のものになってきている。今度は微笑を浮かべていた。
傍に立っているのは、彼女と同い年くらいの少女と小さな男の子だった。おっとりとした面立ちのその少女は、長い黒髪と大きな目、それから、右目の泣きぼくろが特徴的だった。しかもその目元は、少女にくっついている弟らしき男の子とこれまたそっくりそのままである。
一枚捲ると、写真がいきなり新しいものに変わった。色は相変わらず茶色っぽく劣化しかけている白黒であるが、とてもはっきりとしている。
「これは……」
土方は絶句した。知っている写真だった。それどころか、自分も一緒に写っているし、同じものを持っている。真選組結成時、記念に撮られた写真だった。
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長谷夏子(プロフ) - ukyo_0527さん» こちらこそ、ご覧いただき本当にありがとうございました。長い間応援してくださって感謝しております。 (2023年1月4日 10時) (レス) id: 394b5918dd (このIDを非表示/違反報告)
ukyo_0527(プロフ) - 最後まで読めてよかった。作者さんありがとうございました。 (2023年1月4日 4時) (レス) @page49 id: 7920f89ce1 (このIDを非表示/違反報告)
長谷夏子(プロフ) - いくまさん» コメント嬉しいです、いつもご覧いただきありがとうございます!!お褒めの言葉大変恐縮です、これからも頑張ります!よろしくお願いします! (2021年8月6日 0時) (レス) id: 394b5918dd (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - いつも更新楽しみにしています。書き方や表現の仕方が大好きです。更新頑張って下さい、待ってます、、!! (2021年8月5日 13時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
長谷夏子(プロフ) - 饅頭こしあん派さん» コメントありがとうございます。とても嬉しいです!自由な時間が増えてきたので少しずつ更新していきたいと思います、よろしくお願い致します! (2021年8月4日 14時) (レス) id: 394b5918dd (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:長谷夏子 | 作成日時:2020年1月5日 12時