十五、足跡 ページ1
.
「どういうことだ? 原田ってあのハゲの隊長だろ? 何であいつが出てくるんだ」
銀時には、十番隊隊長である原田右之助の名が突然土方から挙がったように思えたようであった。同じようにAの残した帳面を覗いている総悟と土方の顔を、交互に見比べる。
土方は総悟の目配せに頷くと、帳面のある頁に描かれている似絵を指さしてみせた。
「この絵と似た面相、似た名を持つ隊士が十番隊に所属している」
「さすがに空似だろ。根拠があるのか」
「俺の勘だ」
平然とした土方の答えを聞いて、銀時は額に手を当て天井を仰いだ。
「出たよ、わけわかんねぇやつ。それってつまり、特に証拠はないけど何となく怪しいってことじゃねぇか。そんなざるな捜査でよく今までやってこれたな」
「総悟、二人を呼んでこい」
「俺ぁ伝書鳩じゃねぇんですが」
「つべこべ言うな」
「へいへい」
「聞けやお前ら」
土方は銀時にまったく構うことなく、帳面の入っていたつづらを再びごそごそ探り始めた。
慎重な手つきで二枚の古い布切れを取り出し顔の前にかざす。すると、その端々に黒ずんだ染みがついていることに気が付いた。
「こりゃあ血だ。しかもかなり古いな」
「うるせぇな、見りゃ分かるわ」
銀時の指摘にぴしゃりと返答したものの見解自体は一致していた。
真っ赤な血液は空気に触れると含まれている鉄分が酸化し、徐々に黒ずんでゆく。戦をくぐり抜けてきた銀時や命のやり取りを生業とする土方にとっては、見慣れた光景であった。
「あいつの血だと思うか」
土方が尋ねると銀時は目を細めて二枚の布切れを観察し、やがて首を横に振った。
「どっちも着物の生地だ。ただ、ひとつの着物じゃねぇ。それぞれ男物と女物みてぇだ」
二人は沈黙し、顔を見合せた。
血のついた着物から切り取られた布。しかも、男物と女物で随分と古い。そんなものを大切に持ち続けている。これらが何を示すのかは、容易に想像が着いた。
「形見、ってわけか」
「しかも、こんな遺し方ということは病死じゃねぇ。事故かあるいは……」
「記録は残ってねぇのかよ。事故にせよそうじゃねぇにせよ、お前ら一応警察だし調書とかあるだろ?」
「いや、ない」
土方は記憶を巡らせることもなく即座に否定した。
「調書という制度自体はある。
138人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
長谷夏子(プロフ) - ukyo_0527さん» こちらこそ、ご覧いただき本当にありがとうございました。長い間応援してくださって感謝しております。 (2023年1月4日 10時) (レス) id: 394b5918dd (このIDを非表示/違反報告)
ukyo_0527(プロフ) - 最後まで読めてよかった。作者さんありがとうございました。 (2023年1月4日 4時) (レス) @page49 id: 7920f89ce1 (このIDを非表示/違反報告)
長谷夏子(プロフ) - いくまさん» コメント嬉しいです、いつもご覧いただきありがとうございます!!お褒めの言葉大変恐縮です、これからも頑張ります!よろしくお願いします! (2021年8月6日 0時) (レス) id: 394b5918dd (このIDを非表示/違反報告)
いくま(プロフ) - いつも更新楽しみにしています。書き方や表現の仕方が大好きです。更新頑張って下さい、待ってます、、!! (2021年8月5日 13時) (レス) id: de9f3ec973 (このIDを非表示/違反報告)
長谷夏子(プロフ) - 饅頭こしあん派さん» コメントありがとうございます。とても嬉しいです!自由な時間が増えてきたので少しずつ更新していきたいと思います、よろしくお願い致します! (2021年8月4日 14時) (レス) id: 394b5918dd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:長谷夏子 | 作成日時:2020年1月5日 12時