【d!】空席はございません (ページ7)

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確かにそこに【krr】ページ7

最近手を付け始めたばかりの研究がある。
しかし僕はどうやら早々にこの研究から手を引かなければならなくなってしまった。

「え？なんでですか？」

僕の研究を理解できないながらも、いつも楽しみにしてくれていたA君が、あからさまに残念そうな顔をする。
感情をそっくりそのまま映してくれるその表情は、いつも見ていて清清しい。
できれば彼女の事を悲しませたくないと思っている程度には僕は彼女に弱い。
それは当の昔に自覚している。
それでも彼女のその残念そうな顔を今の僕に覆す事は出来そうになかった。

「僕がこの研究を進めてたのには理由があってね。僕はどうしてもこの研究の題材になった”これ”を”なし”と結論づけたくて調査をしてきたんだ」

「…それなのに、どうしてそんな大事な研究を投げ出してしまうんですか…？」

「…簡単な事だよ」

「だって、”それ”が”ある”って分かってしまえば
どんな調査も屁理屈も、全部無意味なのだから。

「本当に、”あった”んですか？」

「うん。”あった”よ。…事実、それを裏付けてしまう証拠も最近発見された。」

「そうなんですか…だったら、”ダメ”ですよね」

困ったような、少し切なげな顔。
普段どんなことでも明るく、朗らかに笑い飛ばしてしまう彼女にしては珍しい表情だ。出来れば見たくない。

「次の研究のテーマとかは決まってるんですか？」

「ううん。まだ。」

「それじゃあ、次は何になるのか楽しみにしてますね！」

余程僕の研究を楽しみにしてくれていたのだろう。
そして、彼女の次の研究を楽しみにしているという言葉にほんの少しの嘘偽りもないのだろう。
そんなこと、目の前にいる彼女の屈託のない笑顔を見てしまえば、直ぐに分かってしまった。