【d!】空席はございません (ページ4)

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「兄さん、これから遠征あるの？」

「ああ、明日また発つ」

「…いつまで？」

「わからんけど、一応予定では一年くらいや」

「そっかあ。私のときと一緒だね」

何でもない会話の延長で、ふとそんな話題になった。

”私のとき”。
それは考えるまでもなく、大分前にグルッペンがAに命じた任務の事をさしているのだろう。
妙な動きが目立っていた国に潜り込んで情報を掴んで来いという任務。
きっとAへの信頼ゆえだったのだろうが、あまりにも不明瞭な任務に、彼女が冗談交じりで「グルちゃんひどいよー」と言ってたのを昨日の事のように覚えている。

「気をつけてね、兄さん」

俺が一年後に、平穏無事な姿で帰ってこれる保障なんてどこにもない。
その事を”幹部”という立場ゆえによく知っているAは、彼女らしくもない真面目な顔で俺にそう言ってくれた。

「…ああ。」

その話題を最後に、彼女はまたどこかへ去っていってしまった。
きっと、彼女がいなくなった今この瞬間、俺が何を考えているのかなんてAは知らんのやろう。
…その方がええ。

彼女の後姿が廊下の奥へ消えた頃には、くしゃくしゃになったはずのショールはすっかり元の姿を取り戻していた。