【d!】空席はございません (ページ3)

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まるで胡蝶の夢のよう【nisn】ページ3

「にーいさん！」

ぐい、とショールを引っ張られる感覚と共に、体が後方に傾いた。
廊下を一人歩いていたら突然そんな出来事に襲われ、ただでさえ困惑している俺の頭に、更に俺の事を惑わす声が飛び込んでくる。

この声は、ああ、そうや。

この声は、彼女の。

「…おかえり、A。」

「うん！ただいま！」

そう言って俺に笑顔を見せる彼女は、数年前に任務に向かったときと変わった様子は無かった。
全くもって、そっくりそのまま。

俺のショールを固く握り締めて俺の事を見詰める彼女は、きっと俺に大した用事なんてないんやろう。
彼女が能天気な顔をしている時は大抵そうなのだから。
自分の直感が正しいか彼女本人に確認してみようと口を開いたのと殆ど同時だった。

「あっ。…ごめんなさい！」

ばっと、Aが俺のショールから手を離したのは。
どうやら無意識の内に握り締めていたらしく、Aが掴んでいた部分が僅かに皺になっている。
どうやら彼女はこの事を謝罪している様だ。

「いや、ええよ。これくらい」

特別潔癖という訳でも、几帳面という訳でもない俺は、ショールをどうにかするでもなく、ますはAに大丈夫だという事を伝える。
しかし俺が気にせんでも彼女は大げさなほど気にしているようで、彼女の視線は分かりやすいぐらいに俺のショールに向けられていた。

「…ほ、ほんとにごめんね」

「だからええって。」

＊