【d!】空席はございません (ページ20)

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そう朗らかに笑い、これまでの事を話し出す彼女に、またしても俺の決意がそがれてゆく。

このまま変に謝らん方が今のこのAの気分を壊さんですむんちゃうか？とか。
きっと俺がしおらしく謝るのなんてAは望んじゃいない、とか。
自分に都合の良い現実ばかりを夢想してまう。

それでも、

「それでね、私もう笑っちゃって！」

Aの屈託のない笑顔。
俺の一番好きな顔を見ていると、余計に彼女に対する罪悪感が俺に重くのしかかってきた。
こんな笑顔をする子に、お前はひどいことをしたんだぞと。
まるで誰かの亡霊が俺に恨み辛みを囁いているかの様だった。

ああ、結局。

「(俺、自分の事しか考えとらんやんか…。)」

結局。
俺は自分が楽になりたいだけ。
ただ彼女に許されたんだという事実が欲しくて、その事実を手に入れる為に彼女に縋ろうとしているだけや。

…クソったれやなあ。

「シャオロン…？」

彼女の声が俺の名前を呼んだその瞬間に、意識が現実に引き戻される。
見れば、自分の世界にのめりこんで無言になってしまった俺の事を心配そうな顔で見詰めるAの顔が、間近にあった。

「どうしたの？何か、考え事？」

「…いや、なんでもない」

彼女の追及から咄嗟に逃れようと、話をはぐらかそうとする。
しかし彼女はそこで簡単に俺の事を逃がしてくれる程、甘くはなく。

「…ねえ、」

不意に、呼びかけられたその瞬間。

「…え、」

ふわりと

Aは俺のより何倍も小さな自分の体で、俺の事を抱き締めた。
…Aの予想外の行動に、思考が停止する。
さっきまで一人でうだうだ考えていたものが、残らず離散してゆくのを感じた。

「シャオロン、」

「ただいま」

「…っ、」

ああ、せや。
彼女はいま、この瞬間。
確かに俺と一緒にいる。いて、くれている。

彼女の存在をもっと強く感じたいが為に、俺も彼女の背中に腕をまわす。
笑ってしまうぐらい細い彼女の腰は、少し力を入れれば折れてしまいそうやった。

「なあ、A。」

「うん。」

「ごめん、ホンマ、ごめん……」

散々口に出すのを躊躇っていた懺悔は、いとも容易く俺の手から離れて一人でに言葉になってゆく。

腕の中の彼女は俺の言葉を一切茶化す事なく、全て受け止めてくれた。