【d!】空席はございません (ページ16)

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ヘッドフォンが揺れるのに比例して、コードが揺れてカチャカチャと音を立てる。
先ほどまで俺が頭につけていたヘッドフォンが今は彼女の手の中にあるという事実が、なんだかとても奇妙な事の様に思えた。

「おん。…もう、イヤホン買う必要もないかと思って。」

「ええ。…また、イヤホンの片方借りてロボロの好きな音楽一緒に聴きたかったのにな。」

俺とAは、音楽の趣味がよく合う。
というより、俺が見つけてきた音楽をAはよく好んだ。
せやからよくA、俺にねだっとったなあ。今なに聴いてるの。私も一緒に聴きたいんだけど、いい？って。

「別に、一人でも聴けるやろ。なんならヘッドフォン貸したるよ」

「…分かってないなあ。」

なにが？
そう尋ねる前に、大きく口を開けて笑う彼女が、既にその答えを口にしていた。

「私、この曲がどうのって話してくれるロボロと一緒に聴くのが好きだったんだよ。」

にひひ、と笑う彼女は。
そりゃもう可愛くて、どうしようもなく子供っぽくて。

「…は、」

「…そんなん、言うてくれんと分からんわ。」

根無し草のように、またふわふわとどこかへ行ってしまった彼女。
もう、此処にいない彼女。

彼女のいない空間に一人取り残された俺は、Aへの精一杯の恨みを込めて、そう吐き捨てた。