【d!】空席はございません (ページ12)

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「…あったかい」

「そりゃよかったけど…汗くさくない？俺大分動いてたからさ…」

「全く。汗のにおいはしないよ。」

「…汗の匂い”は”？」

妙な言い回しが気になって、問いただすと露骨に「やっべ」とでも言いたげな顔をして彼女は自分の口元を手で覆う。
そこから更に追求してみれば、数分後に観念したのかAは言葉の真意を白状した。

「…土の匂い」

「ん？」

「だから、土の匂いがするの！らんらんの服。」

「…それ、悪いにおい？」

「ううん。寧ろ安心する良い匂い」

…土の匂いで安心っていうのもどうかと思うけど、まあAが良いんならいいか。

「ね、らんらん」

「ん？なに？」

「私が任務に行く前にした約束、覚えてる？私に野菜の植え方とか教えてくれるってやつ。」

「…そういえば、そんな約束してたね」

思わず忘れてた、みたいな反応しちゃったけど、その約束を忘れた事なんて今まで一度もない。
寧ろ片時も忘れた事なんて無かった。
彼女が帰ってくるまでの途方もない長い月日。俺、考えてたんだよ。
どの野菜を植えようだとか、こんな器具を用意した方がAはやりやすいかな、とか。

勿論全部俺の頭の中で考えてた事だから、目の前のAはそんなの知らないけど。
彼女はただ俺が約束の事を思い出したっていう事実だけで満足したみたいだった。

「今度教えてよ！グルちゃんに今回のなっがーい任務の報酬に連休もぎとってくるから！」

Aはそう言うと、俺の俺の好きな明るい満面の笑顔を見せてくれた。

彼女に貸した上着は、今俺の手元にある。
洗った筈の上着から、ふんわり彼女が残してった彼女自身の甘い香りが漂ってくるみたいだった。