【d!】空席はございません (ページ11)

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残り香は嘘を吐く【htrn】ページ11

これから訪れる季節に向けて備えているとでも言いたげな、寒々しい風。
この時期は色んな作物が収穫できるから心は躍るものの、寒さだけが難点だった。

「らんらん、そんな薄着で作業して大丈夫なの？」

俺が畑で作業しているすぐ横で、しゃがみこんで俺に話しかけるのはA。
長期の任務から帰ってきたAは俺に何をするでもなく、ただ俺が畑作業をしている姿を眺めているだけ。
まあ、何か特別なことをするよりかは、普段通りにしてもらってたほうが俺も変に緊張しないからいいんだけど。
でも、そんなAの服装といえば薄っぺらい軍服だけで、全く防寒着の類を着てないもんだから、説得力もクソもありゃしない。

…まあ、そりゃ俺もいつもの軍服を腕まくりしてるっていう、Aより寒さに対して無防備な服装だから言われてもしょうがないかもしれないけど。

「俺は動いてるから平気なんだよ。寧ろ暑いぐらい。」

「なんだ。ならよかった。」

「それよりさあ。」

にこにこ笑うAに、元気に育ってくれた作物を避けながら近付く。
あっ、て何かを察した様にAは声を上げたけど、もう遅い。

「…やっぱ、冷たい。」

予想通り、Aの手は俺のそれよりも遥かに冷たかった。

「らんらん、これはそのですね…」

「言い訳はいいの。…俺に言っといて、自分が寒いんじゃ忠告してくれても無意味になっちゃうでしょ」

「いや！寒くはなくて…！」

「嘘はいいよ。」

彼女が抵抗しようとする暇さえ与えずに、俺の軍服の上着を半ば強引にAの頭から被せる。
最初はもごもごとなにか言ってたけど、やがて諦めたのか無言で俺の上着に腕を通した。
上着の中からすぽんと飛び出した顔はすねた子供がするみたいなぶすっとした顔をしてて、それがやけに面白かった。