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「あ、竹早くん」
昇降口で小鳥森、と声をかけられ、声の主を辿れば案の定、右手に傘を持った竹早くんだった。
「昨日の傘、返すよ。おかげで濡れずに帰ることができたよ。ありがとう」
「ううん、濡れなくて良かったよ。
こんな時に風邪なんかひいたら、せっかくの大会、出られなくなっちゃうもんね」
竹早くんは小さく笑い、そうだねと言った。
受け取りながら、ふと竹早くんが弓と矢筒を持っていないことに気がついた。
「今日、部活お休みなの?」
「うん。急いだら小鳥森いるかなと思って。早く返した方がいいでしょ?」
そんなに気を使わなくていいのに。
本当に竹早くんは気をくばるのが上手というか。
昨日のあの瞳からは想像もできないくらいに柔らかな笑みを浮かべている目の前の彼。
「竹早くん、無理、しないでね。後ろから鳴宮くんも来てるみたいだし、私はそろそろドロンするよ。またね、竹早くん」
私が忍者がよくするポーズ、右手人差し指を立て、拳を左手で握った。
「ドロンって....小鳥森ってところどころ古いよね。古すぎて新しいというか」
「わあ、竹早くん通じるの⁇すごい、初めて出会ったよ」
それじゃあ今度こそ、またね、といえば笑顔で小さく手を振ってくれた。
外に出れば、雲ひとつない快晴だった。昨日の雨なんてなかったみたいに。
昨日の雨はあの厚い雲を綺麗に洗い流すためのものだったのかな。なんて思ってみたり。
まだ昨日の雨の水たまりの残っている道は、青い青い空を反射して見せていた。
ふと立ち止まり、手に持っていた傘で会の形を作ってみた。
「はは、馬鹿らしいな。もうあの音は聞こえないのに」
楽しそうに弓道をやっている鳴宮くん。
本当に弓が大好きな愁。
一生懸命に弓を引く竹早くん。
人が持っているものが全部私には欠落していて。
私にないものを最大限好きなことに生かせているのが羨ましかった。
もう一度、あの音が聞きたくて。
もう一度、私が弓の道を歩き始めた原点に戻りたくて。
本当は、今すぐにでも弓が引きたくて。もう一度あの時に戻りたいって。
美しい弦音が、聞きたいから。
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つな - 作者さんのお名前は鬼滅からですね。いつかツルネとキメツ学園のコラボ夢小説とか読んでみたいです。 (2020年12月12日 11時) (レス) id: 67b83bb171 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:栗花落 | 作成日時:2019年1月14日 12時