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「ねえ、竹早くん」

もはや恒例となりつつあるこの台詞。
今日も相変わらずアスファルトからは逃げ水が立っている。

「どうしたの、小鳥森」

「あのね、今度竹早くんたち大会あるでしょ、応援、絶対行くね」


それに、愁にも絶対来てってお願いされてるし、
と付け足せば竹早くんはふっ、と優しく笑った。

「うん、勿論。湊もきっと喜ぶよ」

「竹早くんて本当に鳴宮くんのこと好きだよね」

そんなことないよ、と。
ただ、心配なだけなんだよね?竹早くん。
きっと竹早くんにとって鳴宮くんは本当に大切なんだろう。
学校でたまにすれ違ったときでもすぐにわかる。

「竹早くんにとってのヒーロー、みたいな感じかな」

小さく呟いた声は本棚に向かう彼の耳に届いたのか、不思議そうにこちらを見た。

「そう、だね」

やっぱり聞こえていたのか。
その声に笑みを返せば、彼はまた本棚に向かった。

暖かな風に包まれ、そっと窓の方へ顔を向ければ、
いつのまにか先ほどまで真っ青だった空の姿はそこになく、灰色に濁った空が映し出されていた。
そういえば、台風が近づいてきているとかニュースでやっていたか。
竹早くん、傘持ってきてるのかな。

「竹早くん、今日傘持ってきてる?」

窓の方を見つめながらそう呟いた。

「今日は持ってきてないけど...それがどうかした?」

私の視線につられて窓を見た彼は、雨、降りそうだね。
そう一つ言葉を漏らした。

「よかったら私の傘、貸すよ。
ちょっと待っててね」

私がその席を立った頃にはポツポツと雨が降り始めていた。
後ろで私を日決める声がした気がしたけれど、今更かな。
傘を渡しに戻ってきたら、竹早くんは今までに見たことのないくらい暗くて、悲しそうで、今にも泣いてしまいそうな顔をしていた。

「......、竹、早くん」

果たして今声をかけてしまってよかったのか。
その声で我に帰った竹早くんは、ぎこちない笑みを浮かべた。

「全然、よかったのに」

「よくないよ、風邪ひいたら大変だもん」

開いた瞳はどこか憂いを帯びていて、なぜかとても歪に感じてしまった。
とても見ていられなくて、彼はどこか無理をしてるんじゃないかとか、辛いことがあったんじゃないかとか、いろんなことが頭の中を埋め尽くして行って、目を逸らしてしまった。

「はい、傘。」

彼は一瞬躊躇いながらもその傘を受け取った。

「ありがとう」

また明日返すよ、と一言残し、彼は店から出た。


「..........ありがとう、か」

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つな - 作者さんのお名前は鬼滅からですね。いつかツルネとキメツ学園のコラボ夢小説とか読んでみたいです。 (2020年12月12日 11時) (レス) id: 67b83bb171 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:栗花落 | 作成日時:2019年1月14日 12時

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