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「Aっ、…ぁ……香月先生!」
『恵。』
病室を出た所で遠くから名前を呼ばれ、
声のする方を向くと制服姿の恵が走ってこっちに向かってきた。
今年から高専に入学し、今は同じ学校の教師と生徒の関係。
変な敬語も使いだしたし、
最近ついに背も追い抜かれた。
でもまだ慣れてなくて、
たまに間違えて名前で呼んでくるのが可愛らしい。
『今日は私休みだから、いつも通りでいいんじゃない?』
「……。来るときは声かけろって言ってるだろ。」
『任務で怪我したって聞いたから…。もう大丈夫なの?』
「家入先生に治してもらった。」
『…みたいだね。良かった。』
恵の体に混ざっている呪力は私も良く知っている。
まだ頬に残った傷跡に手を触れ、
こうして生きて帰って来たことに安堵して笑いかける。
思春期なのか、少し恥ずかしそうに俯いて
それでも目を閉じてじっとしている恵。
嫌なのか、そうでもないのか、
相変わらず素直に顔に出さない所は昔と変わらない。
「また、中入らなかったんだろ。」
離した手を掴まれて驚いて顔を見上げると、
責めるような鋭い視線に思わず言葉が詰まる。
10年以上、多くの時間を傍で過ごしてきた。
たぶん悟よりも、私のことをよく見て、知っている。
さすがにここまで一緒にいると、はぐらかすのも一苦労だ。
「知ってるだろ、こんなことになったのは、津美紀だけじゃない。Aのせいだなんて、俺も津美紀も少しも思ってない。」
『分かってるよ。でも私が許せないんだもん。仕方ないでしょ。』
「わざわざ高専で働いてるのも、呪いを解く手がかりを探すためだろ。…五条先生と結婚しないのだって…」
『恵。そんな顔して、自分を責めるのはやめなさい。』
「…っ」
『いいんだよ。恵は何も気にしなくて。高専に入ったのも、悟のことも、全部自分が決めることなんだから。私の責任を、恵は背負わなくていい。』
握られた手に自分の手を重ねて、
親のように宥めて、言い聞かせる。
お姉さんと同じで、途方もないくらい優しい恵。
こんなに良い子に育ってくれて、
血は繋がってないけれど、何より自慢の、愛しい私の宝物。
これ以上、辛い思いはさせたくない。
「…Aを守れるようになるには、まだ時間がかかる。でももう子どもじゃない。守られてばっかは嫌だ。」
『…。』
「五条先生が幸せにしないなら、俺がする。」
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妃 - すごく素敵な作品でした!個人的にその後の恵を見たいです。続編も楽しく読みます。 (2020年11月27日 20時) (レス) id: edafa70660 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - 初めまして。昨日の夜からこのシリーズ全て読ませて頂きました、振り回される五条凄く好きです、主人公も好きです…!こちらは完結でしょうか?もし続きあれば楽しみにしています! (2020年11月17日 11時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
もっち(プロフ) - とっても面白く、素敵な小説で何回も読み返しています(><)!!アンケートの件ですが「チューベローズの初恋 続」後の9年間のお話を希望します...!!! (2020年10月18日 1時) (レス) id: ff2316c362 (このIDを非表示/違反報告)
SS(プロフ) - 9年後のお話希望です!新しい方のお話とも悩んだのですが、まだチューベローズの五条悟が読みたいです、、! (2020年10月17日 20時) (レス) id: 9f946892a2 (このIDを非表示/違反報告)
ゆで卵(プロフ) - 度々コメント失礼します!チューベローズの初恋 短編集を読んでみたいです…!!!元許嫁のお話もとても面白そうで悩んでしまいましたが、チューベローズの初恋をもっと読みたいなと思いました。新しい作品も応援してます!! (2020年10月17日 0時) (レス) id: 18a070aa90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:縞 | 作成日時:2020年5月23日 12時