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『……淋しかったよね…、…ごめん……ごめん、なさい…』
「…。」
こんなに細く、弱々しくなった腕を伸ばし、
涙で濡れてぐしゃぐしゃになった私の顔を包む両手。
その温かさが頬に伝わって、
ますます涙は溢れて止まらない。
ぼやけた視界の向こうには
優しく微笑む瞳と大好きな皺が見える。
「そうね。淋しかった…。だって大事な娘がいなくなったのよ。どんなに待っても祈っても、帰ってこないの。泣いても泣いても、涙が止まらなかった。」
『っ…ごめんなさい、』
「だからね。神様にお願いしてみたの。もし生まれ変われたなら、またあなたのお母さんになりたい。私の娘を、私のお腹に返して頂戴って。…ごめんなさい。私って我儘ね。」
『…っ、』
「Aちゃん。…泣かないで。…謝らないで。貴女は、私たちの娘になってくれたでしょう?…それだけで、十分。過ごした時間は短くても……嬉しくて…、幸せで…、仕方なかったの。」
きっと喋るのも辛いほど体は弱っているのに、
ゆっくり呼吸をしながら言葉を紡いでくれる。
優しく髪を掬って耳にかけ、
頬を引っ張って口の端を上げ、満足そうに笑う。
貴女が綺麗だと言ってくれた顔は、上手に笑えているだろうか。
私も2人の娘になれて幸せだったと、
嗚咽のせいで言葉にはならないけれど、
ちゃんと伝えられているだろうか。
「……笑ってなさい。…責めるのはやめて、幸せになって…。私も、あの人も、貴女を幸せにするために生きたのだから、………」
『…っ、……お母さん…―』
「……………」
『お母さんっ、』
優しく、力強く頬を包んでいた両手がゆっくりと滑り落ち
眠る様に目を閉じた母。
呼吸の音も、鼓動の音もまだ消えてはいない。
でもきっと、
本当にあと少しで父の所に行ってしまうのだろう。
『…、』
自ら手放した時間を、
少しでも取り返したくて。
母の手を握ったままその場に座り込む。
あと、数日。
あと、数時間。
もしかしたら、あと、数分。
少しでも長く、貴女の娘でいられるように。
もう一度、貴女の娘になれるように。
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妃 - すごく素敵な作品でした!個人的にその後の恵を見たいです。続編も楽しく読みます。 (2020年11月27日 20時) (レス) id: edafa70660 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - 初めまして。昨日の夜からこのシリーズ全て読ませて頂きました、振り回される五条凄く好きです、主人公も好きです…!こちらは完結でしょうか?もし続きあれば楽しみにしています! (2020年11月17日 11時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
もっち(プロフ) - とっても面白く、素敵な小説で何回も読み返しています(><)!!アンケートの件ですが「チューベローズの初恋 続」後の9年間のお話を希望します...!!! (2020年10月18日 1時) (レス) id: ff2316c362 (このIDを非表示/違反報告)
SS(プロフ) - 9年後のお話希望です!新しい方のお話とも悩んだのですが、まだチューベローズの五条悟が読みたいです、、! (2020年10月17日 20時) (レス) id: 9f946892a2 (このIDを非表示/違反報告)
ゆで卵(プロフ) - 度々コメント失礼します!チューベローズの初恋 短編集を読んでみたいです…!!!元許嫁のお話もとても面白そうで悩んでしまいましたが、チューベローズの初恋をもっと読みたいなと思いました。新しい作品も応援してます!! (2020年10月17日 0時) (レス) id: 18a070aa90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:縞 | 作成日時:2020年5月23日 12時