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弱々しいが、確かに聞こえた声に顔を上げる。
重ねた手はゆっくり握られ
少しだけ開いた瞳と目が合う。
「まあ…迎えに来てくれたの?」
『え…、?』
「ほら、私って方向音痴だから。ちゃんとAちゃんとあの人の所に行けるか不安だったの。でももう安心ね。Aちゃんがいるもの。」
『……ふふ、そうだね。』
きっと私を幽霊だと思って、
迎えに来てくれたのかと嬉しそうに尋ねる母に笑みが零れる。
何を話せばいいのかと悩んでいたことも馬鹿らしくなるほど、
変わらない柔らかな声に胸が落ち着く。
またこうやって話が出来ていることが夢のようで、
泣いて時間を無駄にするのが嫌で、
震える声を押し殺して笑って誤魔化す。
頬に伸びてきた手を取り、顔を寄せると
嬉しそうに皺を寄せて笑う顔につられて、また笑える。
本当は、ずっとこうして傍にいたかった。
貴方の傍で、大人になりたかった。
「綺麗な大人の女性になったのね。本当に私たちには勿体ない。自慢の娘だわ。」
『……ありがとう。お母さんも、綺麗なおばあちゃんになったね。』
「ふふ。そうでしょ?あの人も歳をとったのかしら…私ばっかり年老いて、あの人は若いままなんてずるいと思ってたの。」
『どうだろう。…でもきっと、イイ男のままだよ。』
「きっとそうね。また私をお嫁にしてくれるかしら。」
『してくれるよ。あんなにお母さんが大好きだったんだから…』
買い物も、家事も、散歩も、
いつも並んでお母さんの手伝いをする。
それが幸せそうで。嬉しそうで。
その輪に私を加えてくれた2人が、大好きだった。
私には大きくて受けとめ切れないほど、
暖かい優しい愛だった。
「Aちゃんは?もう向こうで素敵な人と出会えたの?」
『………うん。会えたよ。』
「まあ…。こんなに綺麗なんだもの。きっとお相手も素敵な人ね。」
『…うん。私には、勿体ないくらい素敵な人。』
「………そう。…そうなの。……1人じゃないのね………、よかった…、」
握った手に力が籠り
涙を流しながら喜んでくれる。
寂しい思いはしてないのね。と、笑う母の涙を袖で拭う。
本当に、優しい人―
『………ごめんね。お母さん。…1人にして。辛い思いをさせて…』
舌先を噛んで堪えてみせても
堪え切れずに泣いてしまう。
溢れてしまえば、もう止まりそうにない。
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妃 - すごく素敵な作品でした!個人的にその後の恵を見たいです。続編も楽しく読みます。 (2020年11月27日 20時) (レス) id: edafa70660 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - 初めまして。昨日の夜からこのシリーズ全て読ませて頂きました、振り回される五条凄く好きです、主人公も好きです…!こちらは完結でしょうか?もし続きあれば楽しみにしています! (2020年11月17日 11時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
もっち(プロフ) - とっても面白く、素敵な小説で何回も読み返しています(><)!!アンケートの件ですが「チューベローズの初恋 続」後の9年間のお話を希望します...!!! (2020年10月18日 1時) (レス) id: ff2316c362 (このIDを非表示/違反報告)
SS(プロフ) - 9年後のお話希望です!新しい方のお話とも悩んだのですが、まだチューベローズの五条悟が読みたいです、、! (2020年10月17日 20時) (レス) id: 9f946892a2 (このIDを非表示/違反報告)
ゆで卵(プロフ) - 度々コメント失礼します!チューベローズの初恋 短編集を読んでみたいです…!!!元許嫁のお話もとても面白そうで悩んでしまいましたが、チューベローズの初恋をもっと読みたいなと思いました。新しい作品も応援してます!! (2020年10月17日 0時) (レス) id: 18a070aa90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:縞 | 作成日時:2020年5月23日 12時