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まだ何も覚悟は決まらないまま、
夜蛾学長の言葉に圧されるように電車に乗っていた。
そもそも家族ではない、戸籍すら存在しない私が
母に会えるのかと心配していたが、
病院に着くなり榊と名乗る白衣を着た男性に出迎えられる。
何も聞かれず中に案内され、
パソコンが1台だけ置かれた小さな部屋に通された。
「篠田幸恵さんの主治医です。私が高専に電話をしました。」
自分と同世代か、少し上くらいだろうか。
眼鏡をかけた雰囲気のやわらかい男性。
― そして、呪力を全く感じない
高専の存在も知っているということは
彼は普通の医師ではないのだろう。
「お察しの通り、僕は呪術師の家系の出身です。でも才能がなくて…。家業は継がず、京都の高専を卒業して医師になりました。」
『……なぜ、高専に連絡を?』
「篠田さんの担当になったのは偶然です。先日、看護師から持ち物の中に1つだけあった写真を見せられて。」
出された物は
手帳の中に挟まれて、綺麗に保存された写真。
写っているのは母と、父と、幼い私。
家族になった記念に初めて撮った家族写真だ。
ニコリともせずに愛想のない私を囲んで、
こんなにも幸せそうに笑っている2人の顔に鼻の奥がツンとする。
「貴女は呪術界では有名ですから、僕のような端の者でも存じています。確か、呪術師の家の出身ではありませんよね。苗字も違いますし、篠田さんは娘は15の時に事故で亡くなったと言っていたのですが、…やはり気になって高専に連絡をしました。」
『…。』
「現在お母様は安定されていますが、もう永くはありません。昼間もほとんど眠っています。」
『…私は……、あの時に死んだんです。今さら会っても、きっと困らせてしまう…』
「では、なぜ来たのです?」
『…、』
「お母様は、ずっと貴女を想っていますよ。貴女も同じだから、特級という忙しい身の上でもここに来たのでは?」
目の前の男の予想外の言葉に顔を上げると、
穏やかな表情に目が合う。
彼とは初対面なのだが、
菩薩のような優しい顔で鋭く核心を付いてくる。
ここまで来てまだだらだらと煮え切らない私を、
まるで咎めているみたいに。
『…医師を辞めたくなったら、ウチの補助監督なんてどうですか?推薦しますよ。』
「光栄ですが、もう呪いに関わるのは御免です。」
『残念。専属で就いてもらおうと思ったんですけど』
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妃 - すごく素敵な作品でした!個人的にその後の恵を見たいです。続編も楽しく読みます。 (2020年11月27日 20時) (レス) id: edafa70660 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - 初めまして。昨日の夜からこのシリーズ全て読ませて頂きました、振り回される五条凄く好きです、主人公も好きです…!こちらは完結でしょうか?もし続きあれば楽しみにしています! (2020年11月17日 11時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
もっち(プロフ) - とっても面白く、素敵な小説で何回も読み返しています(><)!!アンケートの件ですが「チューベローズの初恋 続」後の9年間のお話を希望します...!!! (2020年10月18日 1時) (レス) id: ff2316c362 (このIDを非表示/違反報告)
SS(プロフ) - 9年後のお話希望です!新しい方のお話とも悩んだのですが、まだチューベローズの五条悟が読みたいです、、! (2020年10月17日 20時) (レス) id: 9f946892a2 (このIDを非表示/違反報告)
ゆで卵(プロフ) - 度々コメント失礼します!チューベローズの初恋 短編集を読んでみたいです…!!!元許嫁のお話もとても面白そうで悩んでしまいましたが、チューベローズの初恋をもっと読みたいなと思いました。新しい作品も応援してます!! (2020年10月17日 0時) (レス) id: 18a070aa90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:縞 | 作成日時:2020年5月23日 12時