兄不孝 ページ2
どれくらいの時が経ったのだろうか。
いつまでたっても来ない背中の痛みに疑問を抱きつつ目を開けると、あの
国境付近の廃村である。
急にカセットテープが巻き戻ったかのように、記憶が蘇ってきた。
そうだ、戦争中だった。私の横を同じ衣に身を包んだ兵士たちが次々に通りすぎていった。
私も行かなきゃ、そう思って地面を強く蹴ろうとしたときのことだった。
ふと、どこか見慣れた兵士の姿が目に入った。
でも、名前が思い出せない。
色素が薄めなネコっ毛に、細く引き締まった身体。白い肌に似つかわしい、アメジストのような紫色の瞳。
彼は他のみんなとは逆に、私の方へ向かってくる。
そこで足を止めたまま、なんとなく彼を目で追っていると、私の5mほど先まで走って、地に伏してしまった。
静かに近寄り、彼の後ろから覗き込むと、
「は……？」
「…………え、」
私たちの声は重なった。
そこには、『私』が横たわっていたのだ。
………………あぁ、そうだ。私、ﾀﾋんだんだった。
「A……？なんで、A、なんでなん」
思い出した。思い出したよ、『ショッピ兄』。
あなたは、私のお兄ちゃん。
大好きで大切な、お兄ちゃん。
そんなに泣かないで、ショッピ兄。私まで悲しくなっちゃうよ。
[HQ、HQっ……こちら、遠距離っ……攻撃部隊、第3班ショッピ、です]
[グルッペンだ。何があった]
その通信機から漏れ出る声も、とても懐かしかった。
グルッペンさん。
我らが総統。最高で最強の、総統閣下。
私は、あなたに出会えて、あなたに仕えられて、とても幸せでした。
[……了、解]
報告が終わったらしく、ショッピ兄は私をおぶさってどこかへ行ってしまった。
ごめんね。最期の姿がこんなので。
本当なら、綺麗な洋服を着て、綺麗なお花をいっぱい入れてもらって、シワだらけの顔にお化粧して、安らかに寝てるはずだったのに。
砂や返り血で汚れた姿なんか、見せたくなかったのに。
いくら悔やんでも悔やみきれないよ、ショッピ兄。
ごめんね。ごめんね。ごめんね……。
私はその場で泣き崩れた。
泣きたいのはショッピ兄の方だよ、ってね。分かってるけど、耐えられなかった。
兄不孝な妹だけど、妹だったけど、どうか許して、ショッピ兄……。
私は泣きながら、ショッピ兄と私の後ろ姿を見つめることしかできなかった。
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作者名：ウィング | 作成日時：2020年11月2日 8時
