違法マイク※幼児化注意 ページ10
-一郎 side-
依頼を完了し、帰路を辿っている途中。
路地裏から、背筋がゾクッとするような、気味の悪い笑い声が聞こえてきた。何事かと覗き込むと、そこには、違法マイクを持った小太りの中年男と、1、2歳程度であろう小さな男の子がいた。中年が顔を若干赤く染めながら興奮した様子でその子供に歩み寄り触れようとした時。なんとなく嫌な予感がして、咄嗟に触れようとしたその腕をつかんでしまった。
「何してんだ、お前」
威圧はしながらも弁明の機会を与えてやったのだが、その中年は怯えながら走り去っていった。事の経緯を説明して欲しかったんだが、そんなことを言っていても仕方がない。コイツの親を探そうと、男の子の前にしゃがみこんだ。
「名前、言えるか?お母さんはどこだ?」
『?』
「まぁ、流石に無理か…どうすっかな…」
ちゅぱちゅぱと親指を咥えながらこっちを見つめている男の子。取り敢えず、交番にでも連れて行こうかと抱き上げてさっきまで歩いていた大通りに出る。
さっきまでは辺りが暗くて気が付かなかったが、明るいところで見てみると、銀髪に赤い瞳、そして垂れ目。どこか雰囲気がAさんに似ていた。
「アンタもしかして…Aさんか?」
まさかとは思いながらも名前を口にすると、男の子は小首を傾げながらも大きく頷いた。そんな反応に、しゃがみこんでため息を吐く。
別にコイツがAさんだったことに不満を覚えているわけじゃない。ただ、Aさんの兄が厄介だというだけ。…声を聞きたくもないが、こればっかりは仕方がない。覚悟を決めて、左馬刻に電話をかけた。
「ああ゛?んだダボ、俺様になんか用か。聞きたくもねぇ声聞かせられて不愉快なんだから、用があんならさっさと言いやがれ」
「俺だってアンタには連絡したくなかったし、声だって聞きたくねぇよ。ただ、伝えたいことがあんだよ」
「伝えたいことだぁ?」
「ああ。お前の弟が幼児化してんだ。だから、ちょっと預かるってな」
左馬刻が素直に電話に出たことに驚きながらも、口早に用件を伝えると、電話口越しにこっちを怒鳴りつけてくる左馬刻を無視し電話を切った。
延々とかかってくる鬼電がうざくて携帯の電源を切ると、Aさんを抱きかかえながら、自宅へと歩き出した。
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作者名:眠兎 | 作成日時:2022年1月6日 21時