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「………帰ろっか」
しばらく続いた沈黙に、君の声
まだドリンクバーしか頼んでいなかったけど、これ以上君といられない気がして、
「そうだね」
私も頷いた
店から出ると、当然のように君は言う
「家まで送るよ」
別にいいよ。その言葉が、今日はなぜか出てこなかった
「…………」
黙りこんだ私を、君がちらりと見下ろす
神宮寺くんと離れたくて、レストランを出たのに、
いざ時間が来ると、もう少し、一緒にいたくなってしまったんだ
そんなこと、君には言ってあげないけど。
電車の中は相変わらず人が少なくて、
触れそうで触れない微妙な距離のまま、
私たちはガタンゴトンと揺られていた
それでもたまにぶつかる肩に
ここでぎゅっと君を引き寄せられたら、
どのくらい、あったかいのかな。
そんな想像が浮かぶ
「次だよね、駅」
「うん、そう」
短く交わした会話。
それだけでも、充分愛しく思う私は、
君のことを、好きなのかもしれない。
電車を降りて、あっという間に着く私の家
「今日も、ありがとね。遅くまでごめん」
「ううん、こちらこそありがとう。送ってくれて」
「………じゃあ、おやすみ」
何かを言いかけたけど、君は、
私に向かって小さく手を振る
「おやすみ。気をつけて」
にっこりと笑って、君は背を向けた
その背中に背負われたギターケースが遠ざかって行くのを見送る私
角を曲がって、やっと君が見えなくなってから
「………ふぅ、」
ひとり小さく、息を吐いた
多分私は、また君のことを好きになっている。
でもきっと、戻れない。
隣を歩く自信が、ない。
君と別れてから私は、1度も恋をしてこなかった
それでいいと思っていた
いつか別れるなら、最初から付き合わなければいいんだ、って
そう思っていたのに。
君とこうして、何回も会っているうちに
あの頃の眩しく、甘酸っぱかった日々を思い出す
君は、どうかな。
あの頃に、戻りたいと思う？
やっぱり素直にそんなこと、
今更もう、聴けないけど。
その時、冷たい風がぴゅうっと吹いて、私の髪をぐちゃぐちゃにした
「………」
君が消えていった曲がり角を最後に見つめた私は、
自分の家に入って、ドアを閉めた
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作者名：詩愛
| 作成日時：2020年2月19日 15時
