蒼く、染まれ Y.J（２） (ページ45)

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ファミレスの片隅で、君と私は過去を掘り起こす

「………最後の雑用は、スリル満点だったよね」

「スリル、って、」

「だって人が入ってきた時まじびっくりしたよ、俺」

笑いながら言う神宮寺くん

たしかに私も、びっくりしたけど、

「……神宮寺くん、余裕そうだったじゃん、」

ちょっとだけ、悔しかった

はじめての経験で心がついていかない私と違って、

君は顔色ひとつ変えずに、現れたクラスメートと話をしていたから。

「………そう見えた？」

神宮寺くんが、私に聞く

「うん、見えた」

「そっか」

その反応が、ちょっとそっけなくて、

「神宮寺くんは違ったかもしれないけど、」

思わず口をついて出てきた言葉

「私にとってはあれが、はじめてのキスだったの、」

言い終わってすぐ、恥ずかしくなる

だからなんだよ、って、言われてしまいそうで

君にとっては、どうでもいいことなんじゃないか、って、考えてしまって

だけど君は、少しだけ微笑んで

「俺にとっても、そうだったよ」

なんて言うから、すべてが狂うんだよ。

信じられなかった

きっと神宮寺くんは経験をたくさんしてきて、

私なんかそのたくさんの女の子のうちのひとりで、

だからあんなにいろいろなことに慣れていて、

だからあんなに、

簡単に私の手を離したんだと、

思っていたから。

「…………」

「信じてないね、」

君は困ったように瞬きをする

「………だって、あんなに慣れてて、」

「そんなことなかったよ。まじで手探り状態だった」

なんだか違う次元から話をしているみたいな奇妙な感覚

「今言ってもな、って感じはすると思うけど、」

君はゆっくりと話しだす

「そもそも俺がはじめて好きになった子は、Aだったし、」

「はじめてキスした子も、Aだよ」

君の言う通りだ

今更そんなことを知ったって、私のあの頃の悔しさは消えなかった

「大切だった。誰よりも」

ねえ、それならどうして、

あっさり私たち、別れたんだろうね。

何も答えられずに、カップの中に入ったコーヒーを見つめる

冷え切った沈黙と真逆な、温かい湯気が、

ひっそりと、たちのぼっていた。