蒼く、染まれ Y.J（２） (ページ32)

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「あのクッキー、まじで嬉しかったな～。俺、まだあの味おぼえてるよ」

駅の改札を抜けながら、君はそんな風に呟く

「……それは、よかった、」

やっぱりこういう話は、反応に困るな

「うん。あ、家そっちだよね、送るよ」

私が向かおうとしている電車のホームに気がついた君は、すっと方向転換をする

「え、いいのに、」

「いやもう時間遅いし。差し入れまでしてもらっちゃったからさ」

今日はなんとなく、君とこれ以上一緒にいたらいけない気がしてたのに。

「………いいから。送らせてよ」

駅の構内で立ち止まった私を、

君が寂しそうに、振り返った。

電車に乗り込むと、さすがに遅い時間なだけあって、人が少ない

数人しかいない車両で、隣に座る私たち

「………眠い？」

数分後、うとうとしてきた私に、君が笑いながら声をかけた

「………ううん、大丈夫、」

「寝ててもいいよ？起こすから」

ちょっぴり微笑んだまま、君はそう言うけど、

「大丈夫、ありがとう」

弱みを見せないように、強がって目をこじ開けた

過ぎていく景色

私たちは言葉を交わさない

降りていくサラリーマンたちを、なんだかしんみりした気持ちで見送る

「…………」

あまりに静かだから、寝てしまったのかと神宮寺くんを振り返った

君は、寝ていなかった。

あの頃よりぐっと大人びた横顔で、

窓の外の流れていく景色を、ただずっと。見守っていた。

そこで突然思い出す、君の今の状況

2年も遅れをとって決断した、受験。

そんな中、私を誘い続ける君。

大変な時期なのに、私に会いたいというのは、

どうして、なの。

沈黙のまま、電車を降りて私の家に向かう私たち

神宮寺くんのさっきの横顔が頭から離れなかった

「……じゃあ、ありがとう。送ってくれて、」

家の門の前、君を振り返る

「どういたしまして。そういえばさ、」

神宮寺くんは緊張気味に、言葉を続けた

「そろそろバレンタインだよね」

「ああ、うん、そうだね」

「………楽しみにしてる、Aからのチョコ」

そんなこと、言わないでよ。

「………考えとく、」

「義理でもいいから、よろしくね」

君は小さく手を振って、

いつかのように、夜の闇に消えていった。