124 / いつかに置き忘れた言葉 ページ28
side M
「……そういうの、……誰かと、ごはん食べてるときとかも、あって、」
「うん、」
「なんか、いろいろ…気になって、ちょっと……気が、」
「うん、気が張って疲れちゃうね」
「ん、…でも、疲れるだけじゃなくて、ちゃんと楽しいの、」
「うん」
「僕にも、ごはん食べて…一緒に居てくれる人が居るって、」
「うん、」
「だから…、……だから、しんどいだけじゃない、……ごはん行くのしんどいって言って、傷つけてごめんなさい…っ」
自分の脳にすべて遺ってることに気づいて、
あのときのことを謝ってないって、ずっと気がかりだった。
みんなのあのときの傷ついた顔も、ずっと脳裏にあった。
もう半年ほど前のことで、
忘れてないって気づいてからも数ヶ月経っていて、
謝るタイミングなんてもっと前からあったのに。
”昨日のことでも先週のことでも、去年のことでも聞くよ”
いつかのリーダーからのその言葉で、経ちすぎてしまった時間への罪悪感が少し減ってる。
「うん、大丈夫。俺らもあのときはちゃんと話聞けてなかったなって後悔してた。ごめんね」
予想外のみんなからの謝罪に、反射的にふるふると首を横に振る。
”俺らが悪い” っていう言葉でもなく、僕の謝罪だけを受け取る言葉でもなく
どちらも両立させた言葉に、心の底から安心する。
いつのこと、って顔をしないのも
まるで昨日のことのように話を受けてくれるのも
今まで感じたことのない安心感が、身体中に広がる。
「ねぇ、聞いてもいい？」
「ん…？」
「俺らとごはん食べるとき、どういうことが気になってる？」
「どういうこと…、」
聞かれたことに嫌悪感はなくて、ふと考えながらゆっくり声に乗せる。
誰かが食べてるものが少なくなってたら、何か必要になるかなと思ってタブレットの充電が必要だなとか
5人の中で誰か1人だけが食べるスピードが遅いと目立ってしまうかもしれないから、僕も遅くしようとか
手を拭くものがいるけど取れなくて困ってるかなとか
お冷が足りないかなとか。
僕の食べ方はヘンじゃないかな、
声大きくないかな、
話の返事の仕方はヘンじゃないかな、
話を盛り下げちゃったりしてないかな、
笑顔はヘンじゃないかな。
.
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作者名：ヲ伽
| 作成日時：2023年3月16日 17時
