101 / 寒空の中 ページ9
side S
ソファに4人、
少し前屈みになりながら話し合う。
” どうして彼は、戻ったことを教えてくれないんだろう ”
「やっぱりその、違和感を話したくないからかなと思ったんだけど…違うよね、」
「うん、″前の潤くん″ は話したくないっていうより、わざわざ話さないだけだからね」
「でもさ……いつ記憶が戻ったのかもわかんなくない？」
「うん…、翔ちゃんが不思議だって言ってたとき、かな」
相葉くんからのその問いかけに、あの日を振り返る。
でもあの日に、今のような ”前の潤” は見えなかった。
俺の声に驚いて振り返った潤は、明らかに
”今の潤”、記憶がない潤だった。
「………違うと思う、あの日は戻ってなかった、たぶん」
「じゃあ…、」
「俺のときだ、たぶん」
ニノが目線を相葉くんに移した瞬間、
じっとある一定のところを見つめる相葉くんが、静かに口を開いた。
「……俺だけさ、呼び方変わんなかったでしょ、記憶なくなってから」
「うん、」
「でもあの日……、そう、呼ばれて俺、振り向いたの」
「……潤に？」
「うん、そのときはなんで振り向いたのかわかんなかったんだけど…」
今思えば、と
少し悔しそうに話を終えた。
俺が、”今の潤” に会った最後の人。
何かがあったのかもしれない。
もちろん、突然思い出したのかもしれないけれど
もしかしたら、何かが。
「いや、でも……でもさ、今はどうして話してくれないのかを考えない？」
「そうだね…、まずは、戻った潤に向き合わなきゃ、」
「………秘密も、知らないし」
ニノが小さく放ったそれに
少し、心臓が嫌な音を立てる。
外と仕切られているはずの部屋の中で
どこか、寒空の下に居るような
そんな、感覚。
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作者名：ヲ伽
| 作成日時：2022年5月22日 18時
