127 / 幽体離脱のように ページ35
side O
あまりにも空気が悪かった。
表面的には悪い空気感を抑えてはいるけれど、
ひっくり返せばそれはもう、みたいなそんな感じ。
そのひっくり返した裏側が、俺らには見え見えだった。
それでも、責めることなんてできないし
責める気持ちさえ浮かばなかった。
俺らが彼らの立場なら、同じ空気になっていることが
簡単に予測できたから。
「…………なんかさ、」
病院を出た車内で
翔ちゃんが小さく、言葉を落とす。
静まり返った、地獄のような車内で。
「……………違う世界に放り込まれたみたいだった」
誰が拾うんだろう、なんて
まるで傍観者のように考えていた。
「うん、………知ってるはずのものが、全部違う」
結局拾ったのは、今日一日翔ちゃんと一緒だった
潤と一緒だったニノで。
「気遣おうとか、そんなこと思ってもないのに」
「よくよく考えればそれ特別扱いだねって言葉がさ、」
「簡単に出てくんの、」
止まらないみたいに、
壊れたロボットみたいに
つらつらと吐き続ける。
「それがさ、自分の中では思いやりとか優しさから生まれたものなんだから」
「自分の質の悪さに呆れる」
ニノの吐かれたその言葉に、
うん、うん、と頷き続ける翔ちゃん。
「…………それを潤が、仕方ないと思ってるからこそでしょ、？」
それに言葉を続けたのは、俺の隣、運転席の相葉ちゃん。
「……うん、………怒りもしないの、いつも通り笑ってる」
「僕もそう思ってたよって説明までしてさ」
「俺、毎回そんな説明なんてさせたくないよ」
すべてに頷けるし
すべてに共感できる。
だからこそ、言葉が出て来ない。
「受け入れてるつもりだからこそ、……ね」
ひと言、
自分の体内から出てきたのは、そのひと言だった。
受け入れていないわけじゃない。
気持ち悪いなんて思わないし、潤を性別で区別なんてしない。
するつもりもない。性別なんてどうでもいいとも思ってる。
でも、植え付けられた何かが
勝手に疼く。生まれる。
だから彼らも、思いやりで放つ言葉が
特別扱いだと、放ったあとじゃなきゃわからないんだ。
元に戻ったはずの潤との関係が
また、離れていってしまうように感じた。
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作者名：ヲ伽
| 作成日時：2022年5月22日 18時
