ちくり ページ10
『……いったい、何があったん…！』
【………】
目の前の彼女はへらりと笑うだけで何も言わなかった。
今日はいい日だった、天気は良いし占いは一位だったし、あまり好きではなかった体育の授業が自習の時間になったり、購買ではおまけしてもらったり、なんだか良いなと思える日で、早く彼女に会って話したい
そう思って昨日の場所に向かえば、聞こえるはずのない足音がこちらに向かってきていて、咄嗟に隠れてしまった。隠れなくても良いはずなのに
耳を済ませていれば聞こえてきたのは彼女とは違う、けど聞いた事のある女子生徒らしき声
「あの顔見たー？」
「見た見た、ほんとに気持ち悪いよね」
「でもでも、あれはいい気味って感じ。ね！」
『……は、？』
思わぬ人物の名前に咄嗟に出た声を抑えて物陰に隠れる。赤茶色い髪、パッチリとした茶色の瞳にすらっとした体格、誰もが振り返るような容姿
《今何か物音しなかった…？》
「やだ！恋蜜驚かさないでよ！」
《もぉ〜冗談だよ！はーっ、ストレスも発散出来たし……あ！駅にあるカフェの新作バズってたよね、今から行こっ！》
「良いね！」
「えー私金欠なのに〜！」
《しょうがないなぁ私が奢ってあげるよ！》
わいわいと通り過ぎていく煩い人の気配、ダラダラと嫌な汗が流れる、その場から直ぐに立ち上がり必死になって彼女が居るであろう場所へ向かった
運動は得意な方ではない、いつもは走らない廊下を必死に走ってあの部屋に行けば彼女はいて、しかしずぶ濡れで…
…そして冒頭にもどる。
『…っ笑ってる場合じゃないですよ』
今日は体育だから、と持ってきて結局使わなかったタオルを彼女の頭にかける、長い前髪と眼鏡をかけている姿を見てふと、ひとらんさんに紹介された氷室さんのことを思い出す、やっぱり彼女は…
いや、今は目の前の状況をどうにかしないと
【エーミール君…】
『はい、何ですか…何か買ってきますか？夏だからってこんなにびしょ濡れじゃ風邪ひいちゃいますし』
【………ううん、大丈夫。タオルありがとう】
『何があったのかは、聞きません…いえ、聞かなくたって分かります。ですからこれからはずっと一緒にいますので、今日は名前と学年、クラスを教えてもらいますよ』
【ぅ、え？ま、待ってよエーミール君なんでそんな話になるの】
『こんなの可笑しいです、経緯は知りませんが…あなたがこんな目に遭う必要は無い』
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