36（岸side） ページ38
紫耀に駅まで送ってもらう間、沈黙が気まずい俺は街のネオンを数えていた。
変に眩しくて、目がチカチカして、息をすることを忘れてしまいそうな光。
�盒兇気鵑蓮�大丈夫だろうか。
あんなに子供みたいに泣いて。
そんな姿を見ても、俺には何をどうしていいか分からず、ただただ、彼の背中をさすることしかできなかった。
「なぁ、紫耀。俺やっぱいいわ。�盒兇気鷽看曚世掘∩瓩�帰ってあげた方がいいだろ？」
な？と前を歩く紫耀の肩を軽く叩くと、紫耀はやっと口を開いた。
「ねぇ、岸くん」
「ん？どーしたよ」
紫耀は俯いたまま、表情がわからない。
近くの店のネオンが壊れているようで、チカチカおかしな点滅を繰り返している。
「あの話、まだ廉にしてないの？」
紫耀はゆっくりと顔をあげた。
「ああ。まだしてない」
「そっか。なるべく早くしてね」
じゃないと廉、壊れるよ。
「わかってる」
「部屋はアルコールの缶とか瓶とかでいっぱいだったし。ソファーに寝具あるからおかしいと思って寝室覗いたら埃っぽかったし。冷蔵庫は空だし。」
寝れてないのには気付いてた。
毎日酒を飲んでいるだろうことも。
きちんとした食事を取れていないことも。
全部、気付いていて、知らないふりをしていた。
いつかちゃんと、元の廉に戻ると思っていたから。
現実を見るようになると思っていたから。
「誰か、いてやらなきゃダメだよ」
「ああ、そうだな」
「頑張ったねって言ってくれる人がいなきゃ。廉は頑張りすぎるから」
いつしか紫耀は俺を見ていなかった。
俺を通して、アイツを見ているようだった。
ここにはいない、壊れかけた廉を。
「あのさ、もう一つお願いがあって」
「何？岸くん」
深く息を吸い込んだが、吸い込みすぎたせいか胸が痛い。
きっとこれは、俺への罰だ。
「これからも廉に、時々でいい。会いに行ってやってくれないか」
お願いしますと頭を下げた。
紫耀は、
「俺なんかよりいい人いるんだよね？可愛くて、面倒見が良くて、寄り添える女の人、なんだよね？廉に、ぴったりの女の人で、世間でも人気ある女の人なんだよね？
その女優さん」
「だから、それはまだ廉に話してなくて」
「廉のマネージャーは岸くんでしょ」
「紫耀、、、頼むよ」
再びあった紫耀の目は、驚くほど冷ややかで。
「もう行かないよ、俺は。廉には会わない」
近くの店のネオンは、いつのまにか切れていた。
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作者名：むぎ | 作成日時：2023年5月27日 8時
