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「ただいま」
紫耀が帰ってくる頃にはハヤシライスは冷めてしまっていた。
「紫耀おかえり！いつ帰ってくるか連絡なかったから、今ハヤシライス温めるね」
カウンターからキッチンに移動すると、流しで手を洗う紫耀が申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめん。お腹空いてないからいいや」
「、へ？」
お腹、空いてないの？
結構遅めの時間帯なんだけど、
「もしかして、永瀬廉と食べた？」
「、、、ごめん。俺だけ食べないわけにもいかなくて」
タオルで手を拭く紫耀。
「なに、それ」
自分の声に怒りが含まれてるのがわかった。
俺がどんな思いで紫耀を送り出したか、
俺がどんな思いでハヤシライスを作ったか、
俺がどんな思いで、
紫耀の帰りを待っていたか。
「俺、待ってるって言ったじゃん。だからさ、」
「ごめん。本当にごめん。明日食べるから」
ごめん、と頭をさげる紫耀。
ああ。
俺、紫耀と目あってない。
「俺、岸くん駅まで送ってくるわ」
何も言わない俺を見て、紫耀は俺の横をすり抜ける。
「あ、いや。紫耀、俺そーいうのいいから！まじでいいから！な？1人で帰れるし、また連絡しといて」
俺たちの険悪なムードを察してか、珍しく気を使う岸さん。
「いや。すぐそこだし。送らせてよ。
俺も、話したいことあるし」
カラカラ音をさせて、
行くよと店の外に出る紫耀を横目に
岸さんはしばらくの間動かないかったが、
相変わらず何も言わない、動きもしない俺を見て、
紫耀の後を追って行った。
「はぁ」
ため息は誰にも拾われることなく、
温められることのなかった鍋と共に、
冷蔵庫の中にしまわれた。
ピコンと音がしてキッチンを見渡せば紫耀のスマホが置かれていた。
『しょおのいい日教えて』
『2人で出かけたい』
「、っ何これ、、、」
廉と表示されたメッセージ。
ため息の次に溢れたのは嗚咽と涙だった。
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作者名：むぎ | 作成日時：2023年5月27日 8時
