嘘吐き ◈Cater◈ ページ7
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パシャ、というシャッター音が鳴り響く。
その音がかき消されてしまう程、店内は賑わいを見せていた。
今日は絶好のマジカメ日和。
手元のスマートフォンの画面には、洒落たティーセットと共に2人の姿が映し出される。
1人は、派手なオレンジカラーの髪をポンパドールにし、今日もマジカメ映え間違えなし──それがオレ、ケイト・ダイヤモンド。
今日の髪型はバッチリ決まっていて、新しい私服もこの写真でお披露目しちゃおっかな。
最近話題になっているこのカフェは、内装や店内の雰囲気も中々良い。このタルトは甘すぎるけど。
写真の加工を済ませ、画面に映し出されていたもう1人の人物に視線を向けた。
「いやーホント、良いお店紹介してくれてありがとね、──監督生ちゃん」
『うん。行ってみたかったの、こういうとこ』
シンプルなコーデに身を包んだ彼女は、オレが譲ったタルトを頬張りながらはにかんだ。
椅子の高さで足が浮いたままちょこんと座る姿には、思わず顔がほころんでしまう。
オレと監督生ちゃんがこうして2人で出かけるのは、今日が初めてではない。
オレのマジカメの投稿を見て、一緒に行ってみたいと言われたことから始まった。
今までは行ったことのある店だったが、一緒に行く頻度が増えていく中、今日初めて彼女から店を提案された。
マジカメのアプリを起動し、投稿画面に移る。
[ 久々の投稿!監督生ちゃんとカフェ巡り☆
#今日のけーくん #スイーツ #カフェ巡り #カフェ好きな人と繋がりたい #監督生ちゃんとデー_ ]
何故かその言葉に引っかかりを覚え、文字を打つ指がピタリと止まった。
──別に、オレたちは付き合っている訳ではない。
男女間の付き合いがそこまでナーバスに捉えられていないこの時代、投稿したところで騒がれることはまずない。
それに最近、マジカメの投稿ができていないし、フォロワーのいいね返しもまだやっていない。
生活とSNSとの折り合いは今まで上手くやれてきた……はずなのに。
この瞬間だって、何の抵抗もなくさらけ出せるはずなのに。
──なんでオレは、投稿のボタンを押せないのだろうか。
……本当は分かってるよ、理由なんて。
「監督生ちゃん、さっき撮った写真、マジカメに投稿しても──」
『ケイト君さ、』
次に紡がれた彼女の言葉に、オレは息を呑んだ。
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作者名:はさみまもの | 作成日時:2021年11月13日 16時