是非に及ばず−現代鬼殺隊−【煉獄杏寿郎】

15. 化け物 ページ15

私は行き詰まった状況に震えながらも、腰から銃をすばやく取り出し彼女に銃口を向けた。



手がぶるぶると震えている。



「そんなもの俺には何も意味をなさない。」



低い声なのか高い声か分からない人工的な声が頭に響いた。



すると同時に私は絶望で動けなくなる。



目の前の女性はみるみる身体を大きくし、クモの姿に形を変えた。



顔は人間のまま、身体は巨大なクモになったのだ。



銃口を持つ腕も絶望で下がり、私はその化け物を見上げたまま震えた。



「ふふふ、いい匂いをさせてくれる。お前はこの私が食ってやろう。」



そう言ってクモの化け物が私に襲いかかってきた。



釜のような足を振り上げ、私の首めがけて釜を振り下ろす。



肩をすくめた、その時だ。



鼻先に熱い火の粉がチリチリとかすめると、目の前で炎が柱のように垂直に燃え上がった。



熱さに耐えきれず、腕で顔を隠す。



気づくと私の前に守るように立ち、口元を弧の形に描いた彼が赤く光る刀を持っていた。



「煉獄さん！」



「A、危なかったな。が、よく鬼を見つけた。」



感心感心というように、煉獄さんが背中で笑っている。



「貴様、邪魔するな！」



クモの化け物がそう言うと、地面を強く蹴りあげ煉獄さんに向けて飛びかかった。



彼は刃を地面と水平になるように刀を横に構えた。



きゅっと口元を結ぶと、その焔色の眼が強烈に光る。



刀に炎がとぐろを巻くように燃え上がった。



鬼の首めがけて刀を振るうと、鬼の首が燃えながら真っ二つに切れた。



肉の焼かれる匂いと共に、ぼとりと首が落ちる。



煉獄さんは息ひとつ乱すことなく地面に着地すると、そのまま刀を鞘に納めた。



その一連の流れは、本物の侍を目の当たりにしているかと思うほど、美しい所業だった。



落ちた女の首や身体は、灰がきえるようにボロボロくずれて、やがて塵となる。



その代わり野球ボールほどの透明な光の玉が鬼の身体から抜け落ち、ゆっくり上昇しながら消えていくのを見た。



それはまるで、美しい魂が神様のもとへ帰っていくように見える。



やがて、廊下には私と煉獄さんの二人だけが残されたのだった。

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