酒場の主の帰還 1 ページ7
「…なるほどねぇ。それでアンタたち、アタシが帰ってきたのを見て幽霊でも出たみたいな顔してたのかい」
「だって、怪物に襲われて壊滅状態って新聞に書いてあったから…」
隅々まで掃除され、塵一つない綺麗な酒場。
出先で仕入れたとっておきの酒をカウンターの下に収納していたサキは、目の前の3人の不安げな表情を豪快な笑いで吹き飛ばした。
「アタシがそんなんでやられると思ったら大間違いだよ。むしろあんな瞬間に立ち会えたことがラッキーだった。
いやあ、まさか笛が怪物に化けるなんて、誰が想像できると思う?」
「笛が…怪物に?」
「そうさ。黒魔法の…ええと、ララバイ?がどうたらで、呪われた笛の力でギルドマスターたちを呪殺しようとした連中がいてね」
「呪殺!?」
物騒なワードにAが青ざめると、サキは「そんな顔するんじゃないよ」とAの前にクッキーが詰まった可愛らしい瓶を置く。
「留守を預かってくれたアンタたちにお土産。
それでどこまで喋ったっけ…そうそう、その連中を追ってた魔導士が怪物を退治したんだけどね。そのせいで会場はペッシャンコ」
「帰還が遅れたのも、その影響ですか?」
「いや、本当は昨日の夜にでも帰って来れるはずだったんだけど。怪物退治した魔導士、どうやら線路の通った鉄橋も壊してたみたいでね。当分の間は列車が動かないから、仕方なく代替の馬車で帰ってきたのさ」
「なるほど。それは災難でしたね…」
磨りガラスの内部に繊細な模様が施されたクッキー瓶を宝物でも見つけたような表情で手に取って眺め出すAと鈴鹿御前の代わりに、アルジュナがその話に反応を返した。
サキは大きな欠伸と共に馬車で凝ったであろう体を伸ばし、さらに首を回してゴキゴキ鳴らす。
「ずっと硬い座席に揺られてたせいで、体中がバッキバキだよ…アタシちょっと寝てくるから、アンタたちも夕方までゆっくりしてな」
そう言って酒場に隣接している自宅へと帰っていく彼女に一礼し、アルジュナはAたちの方に視線を送った。
そして、呆れたように言葉を発する。
「…後できちんとお礼しましょうね、マスター」
「へ!?あ、うん!」
「鈴鹿もですよ」
「え!?も、もちろんだし!」
舞い散る桜のデザインが美しい瓶とクローバー型の小さなクッキーに心を奪われていた2人は、彼の鋭い声音に現実に引き戻されて同時にコクコクと首を縦に振った。
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作者名:空思鳴 | 作成日時:2020年9月19日 1時