英霊魔導士、フィオーレを征く【第２幕】 (ページ46)

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霊脈上の一軒家５ページ46

一軒家の前で譲渡契約書にサインをしたAは、貴婦人が呼んだ魔道四輪の御者に貨幣の詰まった袋を渡した。

｢ありがとう、契約成立ね。さぁお家の鍵よ｣

貴婦人は満足そうに笑んだ後、Aに銀色の鍵を手渡す。

｢ひと通りの家具は残してあるから、良かったらお使いになってね。もし何か困った事があったら…そうね、アカリファという町のアネット家に宛てて、お手紙を書いてちょうだいな｣

｢アカリファの…アネットさん宛？でいいんですか？あの、詳しい住所は…？｣

手紙を書くなら相手の住所は必須だろう。
小首を傾げてそう尋ねるAを見て、貴婦人は少し考えるような素振りを見せた。
そして、御者から紙とペンを受け取り何かをサラサラと書きつける。

｢これが住所よ。そしてこれが、私の名前。この通りに書いてくだされば、アネット家にある私専用のポストに届くわ｣

筆記体の英字らしき文字が書かれた紙をAに差し出す貴婦人。
Aが丁寧に紙を折りたたんでポケットに仕舞っている間に、貴婦人は魔道四輪に乗り込み、内側から小窓を開けた。

｢では、ごきげんよう！またお会いしましょうね｣

｢あ、はい！ありがとうございました！｣

どこまでもマイペースな貴婦人の行動についていくのがやっとなAが、彼女の優雅な挨拶を受けてペコリと頭を下げる。
それに追従するようにサーヴァントの2人も揃って感謝の意を示すと、貴婦人は可憐な微笑みを崩さないまま、運転席にいる御者に声をかけた。

彼女からの呼び掛けを合図に、細かな装飾の施された豪奢な魔道四輪が走り出す。
貴婦人を乗せた魔道四輪が見えなくなった頃、Aは半ば詰まらせていた息を大きく吸って吐いた。

｢ぷはー！あぁ緊張したー！｣

｢アレがフィオーレのガチ貴族ってヤツ？
なんかもう、見えてる世界が違いすぎって感じ…｣

やんごとなき天魔の姫たる鈴鹿御前がそう言うのだから、きっとあの貴婦人はとんでもない階級のとんでもない人なのだろう。
Aは貴婦人に渡された小さな銀の鍵を、右手できゅっと握った。