旅立ちの前夜 3 ページ31
『…さて。今回嬢ちゃんに伝えたかったのは他でもない、ワシが嬢ちゃんに授けた短剣のことじゃ』
一通りの武勇伝を語り終えた老人は、Aに短剣を与えた時と同じくらい真剣な声音で言葉を紡いだ。
「短剣…」
Aが視線を自らの左腰に向ける。
そこには琥珀の埋め込まれた無機質なダガーが、あの時と変わらず質素なダガーホルダーに収められていた。
『この町を出るならば、その短剣のことは詳しく教えておいたほうがよいと思うてのぅ』
鈴鹿御前からは「女子が持つには無骨すぎない?私がデコろっか?」とデザイン性に不評を買い、アルジュナからは「私が居れば必要ないと思いますが、丸腰よりはマシかと」と若干素っ気ない態度を取られたシンプルな近接武器。
琥珀の部分に何か秘密があることは見た目から察せられるものの、その使い方も、正式な名称__真名も未だによく分かっていない。
『その短剣は、南国より伝わりし伝説の武具“カルンウェナン”。悪しき魔導士を真っ二つに切り裂いたという、由緒ある剣じゃ』
訂正。真名はたった今判明した。
しかし、剣の名を告げられたが故に生じてしまった疑問がひとつある。
「…確かカルンウェナンって、アーサー王伝説の元になった物語に出てくる武器じゃなかった?」
ウェールズの口承文学においてアーサー・ペンドラゴンが魔女を切り裂いた時に用いたとされる伝説の短剣、カルンウェナン。
それは所有者を影に潜ませるという特性を備えた、汎人類史では架空のものとされる武器。
しかしその逸話と名称が本物なのだとしたら、出処は少なくとも南国などではない。
Aの世界では物語の中でしか触れられなかったものが、この世界では実在するものとして扱われているのだろうか。
だとすると、後でこの世界の伝承も深く調べてみる必要がありそうだ。
ちなみにAが汎人類史のカルンウェナンに関してやけに詳しいのは、愛すべき後輩であるマシュ・キリエライトの霊基が円卓の騎士…ひいてはアーサー王伝説に関連していたためである。
『その剣に宿る琥珀は、持ち主の心に共鳴する。嬢ちゃんが強く望めば、矛にも盾にもなるじゃろう』
魔法の効果が切れてきたのか、ホログラムに幾筋ものノイズが走り始める。
『時が来れば、使い方は自ずと分かる。凡庸だが勇ましき異邦の少女よ。おぬしらの長き旅路が、幸運であることを祈るよ』
その言葉を最後に光が消え、手紙は何事もなかったかのように床にはらはらと落ちていった。
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作者名:空思鳴 | 作成日時:2020年9月19日 1時