英霊魔導士、フィオーレを征く【第２幕】 (ページ30)

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旅立ちの前夜２ページ30

サキのおかげですっかり支度を終えてしまったAは、ボストンバッグをベッドの横に置いてから、両腕を天に向けてうーんと伸びをする。

この荷物を綺麗に詰め込んでくれた当の本人は、｢用事を思い出した｣と言ってそそくさと部屋から出ていってしまった。

｢あ。そういえば、手紙…｣

机の上に置かれていた質素な封筒を拾い上げて封を開けようとしたAは、その手紙が蝋で封じられていることを思い出して手を止める。

｢ふ、封蝋ってどうやって開けるんだ…？｣

持ち上げてみたり、裏返してみたり、もちろん振ってみたりしても封は開かない。

｢もしかして、力技でこじ開けるとか…｣

困り果てたAがそう言って手紙を封じている緑色の蝋に触れた途端、封筒が眩い光を放って宙に浮いた。

｢うぇ！？｣

驚いて飛び退るA。
それでもなおフワフワと漂うその封筒は徐々に光を収束させ、やがて半透明な老人の姿を蝋の上に映し出した。
老人はゆっくりと瞬きをした後、Aに向かって特徴的な声を発する。

『嬢ちゃん。いや、ドーリスを救った勇気ある英霊魔導士よ。おぬしらがこの町を出ると聞いてのぅ。急いでこの手紙を書かせてもらったぞぃ』

｢魔法屋のおじいさん！？なにこれ、ひょっとして通信できてるの…！？｣

目をパチクリさせて老人を見据えるAをよそに、老人は｢ふぉっふぉっふぉっ｣と笑い声を上げた。

『驚いたかぇ？驚いたじゃろ。これはこの町で唯一、ワシだけが使える魔法の手紙じゃ。こうやって言葉を吹き込むと、その映像ごと相手に届けることができるんじゃよ』

｢(なるほど、これもこの世界の魔法のひとつなのか…)｣

納得したAが老人の映像に手をかざすと、ホログラムに触れた時のように指先がするりとすり抜けた。
どうやら重要な作戦(オーダー)の時にカルデアから支給される、映像付きのスペシャルな通信装置と似たようなものらしい。
残念ながら今回は音声だけでやり取りする簡素な通信装置しか装備していないため、映像としての性能を見比べることはできそうにないが、きっとダヴィンチがこの手紙のことを知ったら早速カルデアの新システムとして組み込もうと画策することだろう。

この世界の魔法の万能さに驚かされながら、Aは魔法が使えることを自慢げに語り続けている老人のホログラムに耳を傾けた。