英霊魔導士、フィオーレを征く【第２幕】 (ページ25)

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ギルドへの誘い１ページ25

翌日。

｢｢お店を閉める！？｣｣

爽やかな朝日が射し込む早朝の酒場に、ぴったり揃ったAと鈴鹿御前の声が響き渡った。

｢何かあったのですか？｣

｢前々から思っていたことさ。なかなか踏ん切りがつかなかったせいで、アンタたちに伝えるのは少し遅れちまったけどね｣

唯一冷静なアルジュナの問いに、サキは棚に出ていた食器やグラスを箱に片付けながら答える。

｢宿に泊まってる桜髪の坊やが食料庫を空にしてくれたおかげで、決心がついたよ。
…なぁに、そんな何年も閉めるわけじゃない。北の国へ新しい食材を探しに行くだけだからね。せいぜい半年くらいさ｣

｢半年…って結構な長旅じゃん！じゃあ、もうここの酒場でバイトできないの？｣

見るからに落胆している鈴鹿御前。
しょぼんと耳を垂れさせる彼女に、サキは｢しょうがない子だねぇ｣と大きな麻袋を手渡した。
ジャラリと重たい袋の口を開けると、中には無数の貨幣が詰まっている。

｢これ、全部お金…！？なんで！？｣

ギョッとして何も言えなくなるAとアルジュナをよそに、少し上ずった声で鈴鹿御前がサキを問い詰めた。
サキはやれやれといった様子で頭を掻き、眉を八の字に下げたまま、強く優しい瞳でAたちに笑いかける。

｢今まで頑張って酒場を手伝ってくれた分のボーナスと、ゴロツキやら盗賊団やらを追っ払ってくれた謝礼金。
半分はアタシのポケットマネーだけど、残りの半分はこの酒場の常連どもがアンタたちにって勝手に置いていったものだ。『平穏を取り戻してくれてありがとう』…ってね｣

｢でも、盗賊団のボスを倒したのはナツで…｣

手柄の横取りは嫌だと反論するAに向かって、サキは人差し指を1本立てた。
それ以上述べることを禁じられたような気がして、Aは大人しく口を噤む。

｢何にせよ、アタシとアタシの店がアンタたちに救われたのは間違いないさ。聞いたよ、クレープ屋のオヤジも助けたんだってね｣

｢あれは、突発的な鈴鹿の思いつきでしたし…｣

｢あーもう。グチグチ言わずに受け取りな。それはアンタたちがドーリスにもたらした平和の証。みんな、目に見える形でアンタたちに恩返しがしたいんだよ｣

これがこの酒場の＿＿ひいてはドーリスの町なりの善意の示し方なのだろう。
久しぶりに異世界の人々に肯定されたような気がしたAは、泣きそうになるのを堪えながら精一杯の感謝を込めてサキに深々と頭を下げた。