英霊魔導士、フィオーレを征く【第１幕】 (ページ39)

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説教と仮住まい３ページ39

いつの間にか太陽は西に傾き、あれほどまでに混雑していた駅前から、少しずつ観光客の姿が消えていく。
夕焼け色に染まるフルール通りのクレープ屋に帰ってきた一行は、外置きのベンチを片付けていた店主に遠くから手を振った。

｢おじさーん！客入りはイイ感じー？｣

｢おー、嬢ちゃんたちか！
イイ感じどころか過去最高だよ！一体どんな手を使ってこんなに呼び込んだんだい！？｣

｢すごいでしょー？日頃のスキル上げの賜物だし！｣

店に戻ってきたAたちに気づき、店主は驚嘆混じりの賞賛の声をあげる。
鈴鹿御前はそれを満足げに受け取り胸を張ったが、背後にアルジュナの視線を感じて即座に姿勢を正した。

｢もしや貴女、魔眼のスキルを観光客に…？｣

｢さ、さぁー…？なんのことかなー？｣

彼の追及の目に明後日の方向を見て態とらしく口笛を鳴らした鈴鹿御前は、話題を変えようと店主に駆け寄り、片付けの邪魔にならない程度に伺いを立てた。

｢おじさん、私がお願いしたヤツは？｣

｢あぁ、アレかい？昼のうちに配達員に頼んでおいたから、早ければもう酒場のほうに届いてるんじゃないか？｣

｢マジ！？おじさん仕事早すぎだし！超ありがとー！｣

テンション高めにハイタッチを要求する鈴鹿御前に、若干鼻の下を伸ばした店主が｢いえーい｣と応じる。
この店主にも鈴鹿御前の魅了がかかっているのではと訴えかけるようにAを見たアルジュナに、Aは｢流石にないない｣と首を横に振って返答。

｢また困ったら呼んでね、おじさん！
この町にいる限りは駆けつけるし！｣

｢おう！本当にありがとな、嬢ちゃんたち！
たまにはお客さんとして食べに来いよ！｣

クレープ屋の店主にひと時の別れを告げ、一行は仮住まいである酒場の2階へと引き上げていく。
橙色の陽光に淡い闇が溶け、夜の匂いが立ち込めつつある白壁の大通りに、4人と1匹の細長い影が並んでゆらゆらと揺れていた。