依存という罪 6 ページ49
刹那、如月がベットから勢いよく起き上がり、自身の両手を確認していた。
夢のように瞳孔は見開き、気温は高くないにも関わらず酷く汗をかいている。
「嫌な夢でも見たのかな?」
ランサーは今まで伝わってきた光景をわざと知らない素振りをし、夢か現かの区別がつかない如月を引き戻す。
「…?」
暫く茫然とした顔で彼を眺め、周囲を見渡し、そして自分の容態を確認する。
現実だと断定した彼は、自我を確定させるために小さく頷いてベットから降りる。
「大丈夫、ここには無慈悲に君を害する人はいないよ」
何度も瞬きを繰り返し、時折天井を見上げ挙動不審な行動をしている如月に優しく、そしてなにも知らない人のように声をかける。
「…千枝?」
如月が目を見開き、虚空を見つめ、そして呟いた。
その名前は日本の女性名であり、明らかにランサーとは違う名前だった。
「いいや、違う。君のサーヴァント。ほら、ランサーだよランサー」
「ラン、サー…?」
如月がその単語をひたすらに反芻し、暫くしてから首を大きく振る。
夢に包まれた彼は妙に現実的な思考ができず、すべてに疑念持たず現実でありながらランサーの存在は朧気なものと捉えていた。
「…なら、君の名前は」
「それ以上はいけない。何処で誰が聴いているかもわからないだろう?広い、精度の高い聴覚をした誰かが」
まるで、子供にゆっくりと言い聞かせて毒で蝕むように。
「…誰か。ランサー、これは僕の作り出した幻覚?」
「現実。でも肉体(身体)に温もりを帯びた誰かの夢かもしれないね」
まるで、白を染める疑いとなのついた染料のように。
「…精神(心)は?」
「そんなことを私に聞かないでくれ。晴天の下で立つ人間もいれば土砂降りに座る人間もいるだろう?」
優しく、優しく。
「僕は、どっちだ?」
「均衡を保つ曇りといったところか」
真相を埋めて、回りくどく悟らせないように。
「…そっか」
ゆっくり、ゆっくりと毒沼へ嵌めていく。
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作者名:菫青 | 作成日時:2019年8月26日 22時