第58話 無敵王者 ページ18
「……俺は大事な用があって、暫く出かけて来る。
俺が帰って来るまでには、お前等、ここから出て行っとけよ」
「──爺ちゃん! ちょっと待ってよ!!」
……それは確かに、突然自分の秘密基地に見知らぬ者が入って来れば
不機嫌になる事もあったかもしれないが。
今度こそ構わずに扉を開いて出て行ってしまったケイゾウの後を、
ケータやウィスパー、ジバニャンが慌てて追いかけて行く。
「…………」
それらを見送りつつ、フユニャンは複雑そうな顔つきで頭を掻いた。
この場に居る中でも、彼だけはケイゾウの思いがわかったから
悲しむことも、怒ることも出来なかったのだ。
「…………ん? 何をしているんだ、A?」
ただ落ち込んでいたフユニャンの視界の片隅に
桜色がまだ映っていたのを見つけて、気を取り直して声を掛ける。
彼女は尚も小屋の様を見渡しつつ、彼の問いに返した。
「力が必要なのかもしれないんだろう?」
そう言う彼女の目に映るのは、
吊るされたひょうたん、手作り発電機、水入りの大きな壺。
ある程度はここで一日を過ごすための物を揃えているらしい。
近くには川があったし、数日だけここに居る分には困らなさそうだ。
「……ん……これは……?」
ふと、何かを目に止めたAが、それをよく見るために屈み込む。
彼女の視線の先にあったのは、一冊の漫画だった。
表紙のタイトルは“無敵王者 ガッツ仮面”。
大々的に描かれている──恐らくヒーローであろう人物の傍らに
あの少年がウィスパーを怪魔から助けてくれた後、放っていた台詞が書かれている。
「ケイゾウが凄く憧れているヒーローだ。その名も“無敵王者 ガッツ仮面”!」
「……なるほど。あんまりこういうのは、よくわからないけどな……」
ケータにはこういった漫画の需要がわかるのだろう。
口の中で呟いたAの傍らで、
満面の笑みを浮かべたフユニャンが途端に大きな声で言った。
「──“愛とガッツと根性で、世界にはびこる悪を討つ!
無敵王者ガッツ仮面! 世界はトモダチ! ゼンブ守るぜ!”」
「…………」
お前も一字一句覚えていたのか、とフユニャンを見て苦笑い。
彼が言うには、これがガッツ仮面の決め台詞で
ケイゾウのお気に入りなのだという事らしい。
「……それで、こっちのノートは──“妖怪ウォッチ”か」
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作者名：フェイル | 作成日時：2015年6月25日 0時
