対面(3) ページ10
「鬼道？どうしたんだ？」
鬼道を呼ぶ声が、反対側の出口の方から聞こえる。おそらく、佐久間だろうとAは予想した。
「行きなよ、鬼道。呼ばれてる」
「なら、一緒に」
「わたしは、残ってやることがあるから。それこそ、与えられた役職の業務とかね」
やることがある。真っ赤な嘘だった。ただ外に出る時間をずらしたい一心で、咄嗟にそれらしい嘘をついた。
鬼道は迷うそぶりを見せたが、もう一度佐久間の声が聞こえると、はっとAの肩を放し、一度だけ名残惜しそうに、Aの瞳を見つめると、反対側の出口へ身体を向けた。
「選考試合、楽しみにしてる。……あなたのユニフォーム姿も」
マントを羽織った背中に、ささやかな言葉を贈った。鬼道は、やはり振り返らずに、出口に消えていった。
「終わったのか？」
「まぁ、うん。ちょっと話してきた」
「ろくでもねー会話だったんじゃねェのか？相当お怒りだったろ、あいつ」
「そりゃあ、ね。でも仕方ないことだから。あなたも、あまり周囲を煽るのはやめなさいね」
「つって、止める気ないくせによォ…」
「それがあなたの持ち味でしょう？その代わり、こうしたお小言は受け入れなさいな」
「……いらねェ母親が増えた気分だな」
「いつでも甘えてくれていいのよ？」
「黙れ。今日の小心っぷりからよく言うぜ」
「状況にもよるってこと。大人数を前にするのは苦手、少人数なら大丈夫。あがり症って、そんなものだから」
「あっそ」
「あぁ、でも、待っててくれてありがとうね。…ひとりだと、ちょっとしんどかったから」
「相変わらずメンタル弱ェな、アンタ。これから大丈夫か？」
「大丈夫じゃなくても、大丈夫になるようにするよ」
「当たり前だ。途中で折れたら容赦しねェぞ」
「ああ、ありがとう」
「何笑ってんだよ」
「いいや、あなたのそういうところ、好きだなぁと思って」
「………………………知ってる。けど紛らわしいから、いちいちそう言うのやめろ。小っ恥ずかしい」
「やだ、照れてるの？あなたも、年相応にかわいいところがあるのね」
「うるせェな！！置いてくぞ！！」
「うわぁ、ごめん、ごめんて」
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
しょっちゅう編集してすみません、一番いいところがわからない……
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作者名：榛 | 作成日時：2016年7月11日 0時
