夢よ、どうか永遠に【イナズマイレブン】 (ページ15)

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朝食の誘い(2) ページ15

浮かない表情だった春奈に、ぱぁっと輝きが戻るのを横目で確認した。目で確認しただけで、顔は上げられなかった。

「おはよう、鬼道くん」
「おはようございます」

挨拶を交わしていくマネージャーと鬼道の声を挟みながら、真っ白になった頭で食器を並べる。
何も言葉が浮かばなかった。「おはよう」と言えばいいのか。「おはよう」だなんて、白々しく言ってもいいのだろうか。なんてこともない、ただの朝の挨拶が、呪いの言葉のように感じられて、ただでさえ堅く閉ざされた口が縫い付けられていく。
しかし、身構えていても始まらない。これからの共同生活で、このままの状態が続くようならば、ここに来た意味が無い。意を決して、心の中で静かに数えて、すっと顔を上げた。

「おはよう、鬼道」

鬼道はカウンターの近く、Aからは離れた位置にいたが、かけられた声に耳聡く反応した。
眉間に寄せられた気難しそうな皺が、Aの姿を確認した瞬間に刻まれた。先日の対面が効いていたのか、単にマネージャーたちを気遣ってなのかはわからなかったが、険悪な雰囲気を醸さなかったのは救いだった。

「……おはようございます」

明らかに堅くなった声色で返された挨拶でも、挨拶は挨拶であったことに、内心Aは苦笑いしながら安堵した。
ふたりの間に流れる空気が、先程までの緊張とはまた質の違うものであることを、マネージャーたちは感じ取る。不穏ではないが、下手に干渉されることを嫌っているような雰囲気だった。

「ね、他の料理も盛り付けちゃいましょうよ！」

実兄である鬼道の変化を目ざとく見抜いた春奈は、場を切り替えるように台所で声を張る。明るい愛嬌で、場を和ませようとニッコリと笑った。

「…うん。そうだね」

春奈の笑顔につられAも、今日初めてほんのりと笑う。
鬼道の存在にはなるべく気を向けないように、カウンターに並べられる、盆に載せられた温かい朝食を取る。男子中学生一人前の料理はのしりと重く、一気に2人前を運ぶのは苦しそうだった。横着をこいても良いことはない。諦めて一人前ずつ運ぼうと、盆を取った。
カウンターを離れ、重みを直に受け取ると、予想以上にボリュームがあることを再確認する。運動している少年たちは、やはりよく食べる。その中でも規格外はいるだろうが、平均的に量が多い。少しだけ、少年たちに親しみを感じた。