あぁ、描きたいほどに....3【斎宮宗】

日常茶飯事 ページ21

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｢【サザンカが主役です】｣


そう答えた。


【それだったら、

もう少し強調した方が良いんじゃないかい?】


彼は表情をひとつも動かさず、サザンカを指した。

体が強ばる。

また、あの時のように

『魅力がない』と言われてしまったらどうしよう。

今度こそ立ち直れないかもしれない。


【お嬢ちゃん、僕は君に聞いてるんだけどね】


何も言わない私に、彼は表情を曇らせた。


｢【えっと……その……】｣


緊張で脈が早く流れている。

呼吸さえできているかどうか分からない。


｢【ひ、人が集まる噴水にひっそりと咲く愛の花 という

サザンカを表現したくて、花言葉は永遠の愛ですし】｣

｢【そこに咲いてるサザンカに誰もが気づくわけじゃない

ので、噴水に馴染むように描きたかったんです】｣


はくはく と口が動き、乾いた声が出た。

沈黙が流れる。


【なるほど、そういうことか！

いいね、良いね 僕はこの絵、好きだなぁ】


彼から返ってきたのは、駄目出しでも溜息でもなかった。


"この絵が好き"


誰かに言って欲しかった言葉だった。

全く知らない人からの賞賛。

私の描いた絵を好きと言ってくれた。

彼は決して宗のサロンの人達ではない。

けれども、その言葉は

私が泣くのには十分な理由だった。

とても、嬉しかったから。


｢【ありがとうございます】｣


ぽろぽろと溢れる涙をそのままに、

ジルさんに感謝を伝えた。

彼は驚き、そしてふんわりと笑った。


【お嬢ちゃん、泣かないでおくれ

僕がコレットに怒られてしまうよ】


止まらない涙を袖で拭きながら

何度も感謝を伝えていると、


【お嬢ちゃん!どうして泣いているの?】


袋を持ったコレットさんが厨房から出てきた。

涙を流している私と笑顔のジルさん。

変な光景だ。

だんだんとコレットさんの眉間にシワが寄っていく


【あなた】


さっきよりも低い声だ。


【あなた、またやったわね?!

若い芸術家を試そうと

何か変な事でも言ったんでしょう?】


彼女は一息で言い放った。


｢え?｣


私の涙が引っ込んだ。

横に座っているジルさんは目を逸らし、口笛を吹いた。

とてつもなく誤魔化し方が下手だ。


【だから、うちの店には若い子が減っちゃったのよ！】


半分呆れたようにコレットさんは言った。


【いやぁ、ただアドバイスとかしたくてさ】


眉を下げて、ごめんね と私に頭を下げた。


｢【いえ、むしろありがたかったです】｣


そう笑顔で返した。

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