僕とあの子 歌苗と僕とそれからルー君 【クラシカロイド】

＊小さな演奏会〜var5〜　【モツside】 ページ29

「みなさん、バッハさんとクラクラの二人が来ました！」

明るい奏助の声が僕達の部屋に響く。

「ついに来たか。」

僕はそのルー君の声に、そっと覚悟を決めた。

旅行に行く口実、そのために僕達の音楽を歌苗にささげるのは僕自身が許せなかった。

きっと、ここで僕たちが演奏すれば、歌苗は僕達がお金を稼いで、旅行に行ける分だけのお金ができたことを納得せざる負えなくなる。

けれど、それを許せたのは“森塚或音”までだった。

さすがにヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトまでは許せなかった。

僕の中で静かにくすぶり続けているこの赤黒い炎は行き場をなくした水のようにあふれかえりそうだ。

歌苗。

僕がどうしてこの『きらきら星変奏曲』を選んだと思う？

歌苗は僕なら交響曲やオペラでもこれだけの期間があればピアノ用ににアレンジできたんじゃない？なんて思っているかもしれないね。

けどね、

この曲は日本では『きらきら星』と呼ばれているけれども、本場フランスでは、初恋の歌なんだよ？

きっと歌苗なら僕の気持ちに気付いてくれるだろう。

でも、何かいやだ。

これが音楽家の性(さが)っていうやつなのかもしれないけれど、そんなのは嫌だ。

どうせ思いが伝わるのなら、この曲で思いが伝わるのならば、

僕のピアノで、この気持ちを受け止めてよ。

さあ、僕のこの気持ち、

本気で受け止める覚悟、ちゃーんとしておいてよ。

ね、歌苗。

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