58 ページ9
そう告げた後、アイツは続けて
『お前にだって、人を救える力は十分ある……だから変に焦ンじゃねェ。お前はよくやってる、____』
優しい手つきで頭を撫で続けながら、そんな言葉を投げ掛ける。
私はそんなアイツの言葉に返答する事なく、黙々と手当てを行ってはいたものの
『(…何…コイツ……、)』
思いがけないその言葉に戸惑ってしまい、
どう反応していいか分からず、不自然に視線を巡らせていた。
手当てを終えた後、アイツは立ち上がったかと思えば
何か思い出したかのようにして、懐から小瓶を取り出す。
『これ、お前にやる。』
手渡された小瓶に視線を移すと、そこには色鮮やかな金平糖が入っていた。
『…お前、普段から苛々してるからよォ、糖分足りてねェだろォ。勉強の合間にでも食っとけェ』
『は…?誰のせいで苛立ってると思ってる…元凶はお前だ、』
苛立つと共にそんな言葉を吐き捨てながらも、
『……、…___』
小瓶を開け、受け取った金平糖を一粒口へと運ぶ。
『(…美味しい…、)』
やさしい甘さが口の中へと広がり、先程まで気を張っていた口元が思わず緩んでしまう中
アイツは少し驚いたような表情を浮かべたかと思えば、
私と視線を合わせるようにして、その場にしゃがみ込み
何か言葉を発する訳でもなく、物珍しそうな様子でこちらに視線を向けてくる。
『…なに…、…』
不審に思い、後方へと身を引きながらそう尋ねると
アイツは私の顔を覗き込みながら、
『美味ェか』
そう一言尋ねてきたため、その言葉に返すようにして小さく頷く。
『そうかァ…』
すると、アイツはふっと柔らかい笑みをこぼしながら、その場に立ち上がり
『…また買ってくる、手当てありがとなァ。___』
私の頭に軽く手を置いた後、颯爽とその場を立ち去っていった。
私は手に持った金平糖を見つめ、また一つ頬張った後
『(アイツ、あんな風に笑えるんだな…。)』
そんな事を思いながら瓶の蓋を閉め、机上の端へと置く。
使用した包帯や薬品を片付けながら、先程アイツに掛けられた言葉を思い出し
『……、』
私を認めてくれたあの言葉に、嬉しさや気恥ずかしい気持ちを抱きはしたものの
『(何で…こんなに、アイツの存在は癪に障るんだろうな…。____)』
そんな思いとはまた違う…上手く言い表せない感情が、心の奥底に引っ掛かっていた。
66人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:雫 | 作成日時:2023年9月18日 10時