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微笑浮かべながら、黒羽がそう尋ねると
「……、」
不死川は視線を落とすと共に、口を閉ざしてしまい
黒羽はそんな不死川を目にし、溜息をついた後
「アンタは…人の幸せ気にしてばかりで、自分の幸せをちゃんと考えた事ないでしょう。」
不死川に対して、そんな言葉を投げ掛ける。
「匡近は…よく言ってましたよ、『実弥にはもっと自分の人生を大切にして欲しい』と。」
「これを機に…少しは考えてみたらどうですか。…幸せになる権利ってのは、誰にでも平等にあるんですから。___」
そう告げた後、黒羽は不死川の方へと背を向けて
「じゃあ私は…これで失礼します、」
腰に携えた刀へと手を掛け、
何処までも続く、先の見えない道へと足を踏み入れる。
不死川は立ち去ろうとする黒羽に対して、
「 紫、」
いつになくはっきりとした口調で、その名を呼んだかと思えば
「お前の言う通り、俺ァ…自分の幸せなんてまともに考えた事もなければ……自分が今、幸せかどうかも分からねェ。」
「けど、俺ァ自分自身を不幸だと思った事は一度もねェ。むしろ…恵まれてる方だと思ってるくらいだァ、」
静かに口を開き、率直な思いを黒羽へと告げる。
対する黒羽は一旦足を止めながらも、
「…家族を失くして、友まで失くしたというのに…そう思えるのは何故ですか。」
「戦地に立つ度、救えない命を目の当たりにして…心身共に傷だらけになってるというのに……そう言い切れるのは、一体どうしてですかね。」
振り返る事なく、不死川に対してそんな問いを投げ掛けてきたかと思えば
黒羽はほんの一瞬、不死川の方へと視線を向けて
「さっき『分からない』…だなんて言ってましたけど、もう答えは出てますよね。」
「アンタは人の気持ちには敏感な癖に、自分の気持ちには鈍感なようで……私はもう付き合ってられませんよ、___」
軽く溜息をつきながらそう告げた後、
黒羽は振り返る事なく、颯爽とその場を立ち去っていく。
不死川は去っていく黒羽の姿を、少しの間見つめた後
自身も背を向け、反対方向へと歩き出す。
道中、不死川は黒羽の言葉を思い返しながら
一度足を止め、澄み切った青空と目を向ける。
「(そういえば…雨、上がったなァ___)」
穏やかな風を肌で感じながら、ふとそんな事を思った後
不死川は飛んできた鴉を肩へと乗せ、次の任務へと向かっていった。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年9月18日 10時