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その言葉に女が「ふふ」と笑みをこぼす中、
「それと…これ、ありがとうございます。有難く受け取っておきます。」
黒羽は先程受け取った、包みのお礼を女へと告げた後
「では」と一言告げて、頭を下げる女の方へと背を向ける。
そして、黒羽は付近にいた不死川のもとへと向かい
「すみません、お待たせしてしまいましたね。」
そう声を掛け、ふたたび不死川と共に歩き出す。
「(……)」
不死川は黒羽に対して、内心思うところがありながらも
「…待ってねェ、気にすンなァ」
黒羽から僅かに視線を外し、そう言葉を返した。
道中、黒羽は女性から受け取った包みを解いてみると
そこには色鮮やかな金平糖が包まれており、
「……」
黒羽はそれを一粒手に取った後、
口へと運ぶ前に不死川の方へと目を向ける。
その視線に気が付いた不死川が「どうしたァ」と尋ねると
黒羽は「…いえ、」と返答すると同時に、不死川から視線を外し
「(どうせ…アンタは覚えてないでしょうね。)」
そんな事を思いながら、手に取った金平糖を口へと放り込む。
…カリッとした歯応えと共に、口の中には上質な甘さが広がるものの
「(こんな味…だったけ、___)」
口へと含んだ金平糖は、あの日口にしたモノとは異なる味がした。
***
その後、不死川は黒羽を蝶屋敷へと送り届け
「…またなァ、___」
黒羽と視線を合わせる事なく、静かに背を向け歩き出す。
そんな不死川に対して、黒羽は内心何か思うところがありながらも
「(まァ…別にいいか、…)」
そのまま背を向け、屋敷の戸へと手を掛ける。
そして戸を開き、中へと足を踏み入れようとするものの
「……」
黒羽は一旦足を止め、少し考え込んだ様子で視線を落とす。
するとそこへ、何やら慌てた様子のアオイがやって来たかと思うと
「紫、ちょっと手伝って!…雨が降る前に洗濯物取り込まなくちゃ…!____」
黒羽はアオイと共に洗濯物を取り込み、屋敷の中へと運び終えた後
「___紫、また出掛けるの?…もう時期雨が降ると思うから、出掛けるなら明日の方が……」
アオイがそう声を掛けるものの、黒羽は振り返る事なく
「今行かないと…意味なさそうだから、___」
そう告げると同時に、屋敷の戸を静かに締め
薄暗い雲が広がる中、一人何処かへと向かっていった。
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作者名:雫 | 作成日時:2023年9月18日 10時